がんゲノム医療の理想と現実
仕組みさえ変えれば、がんゲノム医療で助かる患者は、さらに増えるはずです。
がん治療は部位別から根本へのアプローチへ
がんゲノム医療が推進される中、がん遺伝子パネル検査が保険適応になりました。がんの原因である遺伝子の異常を調べることで、最適な分子標的薬を選択出来るようになります。従来、標準治療では部位別に治療が決められていましたが、そもそもがんは患者ひとりひとりによって、さらにいえば細胞のひとつひとつで性質が異なります。標準治療ではなかなかがんで亡くなる方が減らない中、がんの根本原因からアプローチしようということで、国はゲノム医療に舵を切ったのです。
がんゲノム医療が保険適用になる患者は限られる
しかし、問題は山積しています。まずがん遺伝子パネル検査を保険診療で受けられる患者は多くありません。既に標準治療を受けて、これ以上はよくなる見込みがない患者、標準治療が確立されていない希少がんの患者で、医師が新たな治療に耐えられ、効果が期待出来ると判断した場合に限られます。因みにがん遺伝子パネル検査の費用は保険が適用されなければ56万円。一挙に患者が増えれば、医療財政への負担が懸念されますが、情報処理のコストはどんどん下がっていますし、工程をシステム化していけば、さらに費用は下げられるのではないでしょうか。早期のうちに最適な治療を行ってこそ、効果が期待出来るはずですし、医療費全体は軽減できるはずです。
効果は期待出来ても、費用を捻出出来ないという悲劇
もうひとつの問題は、効果の期待出来そうな分子標的薬が見つかっても、それが保険適用でない可能性が高いということです。分子標的薬はがんの性質が同じであれば、部位を問わず使えます。例えばHER2という蛋白質を目印に作用するハーセプチン、EGFRという蛋白質を目印に作用するアービタックスは欧米では幅広く様々ながんに使われますが、国内での保険適用はハーセプチンが乳がんと胃がん、アービタックスが大腸がん、頭頚部がんと限られています。せっかく効果が期待出来る分子標的薬が見つかっても、保険診療では使えず、費用面で諦めなければならないことのほうが多くなりそうです。
分子標的薬は遺伝子の異常に応じて保険適用にすべき
本当の意味で患者を救うためには、技術だけではなく制度をも変えていく必要があります。がん治療を部位別に考えるのではなく、根本原因である遺伝子から考えるのであれば、保険適用の基準もどんな遺伝子の異常があるかということになります。保険適用になるまでには莫大なコストと長い時間をかけた治験で、エビデンスを集める必要があります。がんにおいてはそれがずっと部位別に行われ、現在に至ります。この仕組みを変えていくのは大変かもしれませんが、がんで亡くなる方を減らすには、避けて通れない道ではないでしょうか。