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2018-07-03

がん専門医に聞く患者とのコミュニケーション

 

事実を正確に伝えることは当然です。
しかし、表現を選んだり、少しずつ理解してもらったりという努力はしています。

 

患者にとって病気と闘う上で、一番頼るべき存在は医師でしょう。単に治療を行うだけでなく、どんなコミュニケーションをとるか、どう治療を組み立てていくかは、治療の成否を左右します。1万人のがん患者を診察してきた経験を元に、東京・健康増進クリニックでがん専門外来を開業している水上治医師に、医師としての患者への接し方についてお話を伺いました。

 

──がんと宣告されたら、多くの方がショックを受けると思いますが……
日本人の2人に1人ががんになるといっても、殆どの方は診断されてはじめて「がん」という現実に直面します。誰でもあってほしくないことからは目を反らして生きているものです。どうして自分ががんになったのかという疑問、これからどうしたらいいのかという不安……そうした感情がないまぜになって、パニック状態に陥るのではないでしょうか。

──医師の診断を冷静に聞けないですね。
大きな病院で検査を受けて、がんを宣告される方は多いと思います。立派な病院で優れた医師なら普通は信頼して任せてよさそうなものですが、信頼するしない以前に脳に情報が入ってこない状態なのです。そこが患者さんと医師の溝のはじまりになることがあります。

──患者と医師がよい関係を築けていないということでしょうか?
医師は毎日何十人もの患者さんを診ています。がんの場合、どこのがんで、どんな状態かによってやるべきことは決まってきます。どんな状態かを説明したり、すぐに手術の承諾を得ようとしたり、粛々と物事を進めていることが、医師は患者さんを気遣っているつもりでも、患者さんにしてみれば傲慢に感じられたり、冷たく見えたりするのかもしれません。何しろ冷静に話を聞ける状態ではないのですから。

──先生はがん患者さんにどのように接することを心がけられていますか?
事実を正確に伝えることは当然です。しかし、悪い意味ではなくオブラートに包むというか、表現を選んだり、少しずつ理解してもらったりという努力はしています。がん治療は、迅速な対処が重要ですが、少し時間をかけて、気持ちの整理をしながらわかってもらうということです。 嘘をいってはいけませんが、方便は使いますね。

──先生はがん患者さんへのセカンドオピニオンでたくさんの実績がありますが……。
不幸なことに医師とのコミュニケーションで傷ついて、その後の治療選択を間違えてしまう患者さんは多いのです。医師のほうに悪気はなくても、患者がネガティブな感情を抱いてしまうことはあります。セカンドオピニオンはそのような患者さんにとって軌道修正という意味で価値があるのではないでしょうか。

──セカンドオピニオンの意味とは何でしょうか?
標準治療は基本的にどこに行っても同じなので、担当の医師との人間関係をどう構築していくかが大事だと思います。お互いに腹を割って話せる信頼関係が出来たら、セカンドオピニオンなんて必要ないくらいです。とはいえ、大きな病院になると医師は時間に追われて、ひとりひとりの患者さんとじっくり話せない。患者さんだって遠慮していろいろなことは聞けないものです。そこから不安や不信が募るのであれば、セカンドオピニオンはその解消の手段でいいと思います、

──セカンドオピニオンを躊躇する方はまだ多いようですが……。
日本人は和を大事にしますから、目の前の医師に文句をつけるようで、どうしてもセカンドオピニオンを聞きたいといいだせないのでしょう。診断書などの書類を出してもらう必要もあります。でも、セカンドオピニオンは手ぶらで聞きにきてもいいと思います。経験のある医師であればおよその症状や治療の方針を聞けば、現状の説明と別の視点からのアドバイスは出来ます。患者さんの健康と未来がかかっていることですから、納得して治療に臨んでいただきたい──それが私の使命だと思っています。

 

医師・医学博士・米国公衆衛生学博士
健康増進クリニック 院長
水上治

1973年大学卒業後、東京都内の病院で内科医、1985年東京医科歯科大学で医学博士、1994年米国ロマリンダ大学で公衆衛生学博士、東京衛生病院健康増進部長を経て、2007年都内千代田区に開業。欧米から最新情報を集め、先端医療を用いながら、がん難病の相談・治療を行っている。

◆取材協力
健康増進クリニック
TEL 03-3237-1777
〒102-0074東京都千代田区九段南4-8-2山脇ビル5F

 

 

 

 

 

 

 

 

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