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2018-05-01

5年生存率が1.6%しかなくてもその1.6%に入るための治療がある

がんと診断された時、本当に頼りになる医師とは……。治療実績のある医師、技術に優れた医師は探せても、患者の立場でがんと闘う上での最善の戦略を練ってくれる指南役のような存在はなかなか見つからないものです。東京・市ヶ谷の健康増進クリニック院長・水上治医師は1万人以上の進行がんの患者を診察してきた経験を活かし、がん患者さんが悔いのない治療を選択出来るよう相談に応じています。

「がん患者さんにとって一番望ましい治療を提示する医師は、まだまだ少ない」

──なぜ、進行がんは克服しにくい病気なのでしょうか?
日本では国民皆保険という素晴らしい制度があり、これによって誰もが充実した医療を受けることが出来ます。がん治療においても保険診療として標準治療(手術・抗がん剤・放射線治療)が行われます。標準治療は科学的根拠があり、検証を重ねられた治療ですが、がんという難しい病気に対してマニュアル化された治療であることは否定出来ません。

既に浸潤・転移した進行がんや再発したがんについては、標準治療だけで克服することは難しいのが現実です。 標準治療では全身に飛び散ったがん細胞を排除しきれないため、どうしても再発や転移のリスクが残ります。この難敵を退治するには、自由診療で受ける治療も含めて様々な武器を組み合わせていく必要があります。

──なぜ、標準治療に偏りがちなのでしょうか?
がんと診断されたら、殆どの方は落ち込んだり、冷静さを失ったりするはずです。また、治療の経過が思わしくない方は、不安や疑問を抱えているのではないでしょうか。がんとの闘いでは判断が求められます。しかし、そのような状況で適切な判断を迅速に行うことは困難です。

がんのような大きな病気になると大きな病院で治療を受けるのが一般的です。しかし、昨今、がん医療に対して様々な問題提起が行われているのを見てわかるように、医師のいわれるままに治療を受け、後で悔いが残るという方が少なくありません。

我が国では混合診療が規制されており、保険診療を行う医師は、原則としてそれ以外のことは出来ません。従って、標準治療を受けている限りは、それ以外の選択肢があることさえ知らされないのです。

──自由診療を受けようにも、どんな治療がいいのかがわかりません。
がん治療に関しては多くの本が出版されたり、インターネットで検索すれば、膨大な量の情報にアクセスすることが出来たりするようになりました。しかし、標準治療を完全に否定するような内容であったり、逆にそれ以外を頑なに認めようとしなかったり、種々雑多な意見が入り乱れている状態では、かえって判断に迷うだけではないでしょうか。

がん患者さんにとって何が一番望ましい治療か──様々な選択肢の中からそれを提示する医師は、まだまだ少ないのが現状です。私は医師になってから半世紀近く数にして1万人以上の進行がんの患者さんを診察してきました。その知見を活かし、患者さんが一番悔いのない治療が出来るようなお手伝いをしたいと考えています。

「5年生存率が1.6%しかなくても、1.6%の希望はあるということ」

──進行がんの患者さんはどうしても悲観的になってしまいますが……。
がん患者さんにとって深刻な数字のひとつは5年生存率でしょう。例えば膵臓がんのステージ4では5年生存率は1.6%といわれます。数字だけ見れば厳しいとしかいえませんし、多くの患者さんはそれだけで絶望的になりかねません。

標準治療では出来ることが決まっています。一定の治療を行って、それでも効果が出なければ、後は緩和ケアを行うしかありません。先に挙げた膵臓がんのステージ4になると、基本的には延命しか行いません。治すための治療はやってもらえないのです。

──進行がんの患者は治すことを諦めるしかないのでしょうか?
医師から治療はもう出来ないと宣告された患者さんが、いわゆる「がん難民」です。しかし、もっと生きたい、元気になりたいというのは当たり前の願いではないでしょうか。こうした患者さんに真摯に向き合うことこそ医療なのです。

5年生存率はあくまでも統計上の数字です。たとえ100人のうちの1人しか助からなくても、その1人になる可能性はあるはずです。可能性がゼロであるのと、僅かでもあるのとでは全く違います。

また、5年生存率はほぼ標準治療という枠の中での数字です。様々な選択肢で標準治療の隙間を埋めていけば、その数字はもっと上がってくるはずです。

可能性がゼロでなければやれることは幾らでもあります。 5年生存率が1.6%しかなくても、その1.6%の希望はあるということ。実際、末期がんやかなりステージの進んだがんから完治・進行停止という回復を遂げた方は、私が診察してきただけでも数百人はいらっしゃいます。

まずはその可能性を提示して、患者さんに絶望という暗闇の中で光を感じていただくことが大切なのです。病は気からといいますが、こうして希望を持てるだけでも、治療の効果は違ってくるのではないでしょうか。

「標準治療の中だけでも幾つかのアプローチが考えられます」

──進行がんに対して具体的にはどんな治療があるのですか?
まずは標準治療が基本になります。ざっくりとがん細胞の数を減らすには、標準治療が一番強力だからです。

しかし、それだけでは飛び散ったがん細胞は生き残ります。そこで、先端医療でさらに効率よくがん細胞を減らし、それでも撃ち漏らしたがん細胞については、補完医療で免疫力を上げることでゼロにしていこうというのが、私の基本的な考え方です。

──やはり標準治療が基本になるのですね。
標準治療はがんの出来た場所、進行具合、それまでの治療経緯などで出来ることが決められています。しかし、標準治療の中でもいろいろな選択は可能です。

我が国の医療は外科主導で今日まで続いてきました。その影響で悪いところがあれば切ってしまうという考え方が根強いのです。患部を対象として見る米国的な考え方といえるでしょう。

しかし、ひとつのがんを治療する場合、標準治療の中だけでも幾つかのアプローチが考えられます。例えば食道がんの場合、手術ではなく放射線と抗がん剤を併用した場合でも、5年生存率に大きな差はありません。

──5年生存率が同じなら、手術と放射線のどちらを選ぶべきでしょうか?
食道がんは首から胸、腹を切る大がかりな手術になり、患者さんには負担になります。また、食道を切除すると、どうしても嚥下などで後遺症が残ることがあります。体の一部を切り取るというのはそれだけ大変なことなのです。

仮に手術のほうが数%ほど5年生存率が高くても、その後のQOLを含めて考えることが重要です。これは単に体の機能の不自由さや苦痛・不快感などに止まりません。患者さんがどのような人生を送りたいか、その背景や価値観を含めての判断になります。

標準治療はがん治療の基本です。だからこそ、まずは標準治療を上手に受けることが重要なのです。私は、相談にいらした方の必要に応じて優れた標準治療の専門医の紹介もしています。


──近年、セカンドオピニオンを聞く方が増えましたが……。
近年、患者さんの権利が大事にされるようになりました。その中でセカンドオピニオンを求めることは一般的になりつつあります。

がんに関しては診断が生死を左右することがあります。第三者の意見を聞いて、納得の行く治療を受けたいと思うのは当然でしょう。

──とはいえ、面倒だったり主治医に気を遣ったりで、セカンドオピニオンを聞くことを躊躇する方はいます。
セカンドオピニオンを聞く際には、紹介状を書いてもらったり、検査結果を出してもらったりと、主治医に頼まなければならないことがたくさんあります。権利意識の根付いた欧米ならともかく、遠慮がちな日本人にしてみれば、セカンドオピニオンを聞くという行為自体が、主治医を疑っているように受け取られるのではないかと思って躊躇してしまうのではないでしょうか。しかし、医療の現場においては何よりも患者さんが第一なのです。

もし、主治医にセカンドオピニオンを聞いたことを知られたくないなら、私は何も持たずに手ぶらで来ていただいてもかまわないと思います。セカンドオピニオンはそれくらい気兼ねなく聞くべきなのです。


──どんな医師にセカンドオピニオンを求めるといいでしょうか?
セカンドオピニオンを求める医師は、医学的な見識がしっかりしていることはもちろんですが、標準治療を軸として、先端医療や補完医療までを視野に入れた意見をいってくれるかどうかが重要です。標準治療しか行っていない医師は、その枠内でしか考えられません。逆に医師の中にも現代の医療を真っ向から否定するような極端な方がいますので、そこは注意が必要です。

重い病気と闘っている患者さんにとって、医師は一番頼るべき相手かもしれません。患者と医師にも相性はありますが、診療を通じて信頼関係が築けていれば、なおさら大きな存在でしょう。

 

医師・医学博士・米国公衆衛生学博士
健康増進クリニック 院長
水上治

1973年大学卒業後、東京都内の病院で内科医、1985年東京医科歯科大学で医学博士、1994年米国ロマリンダ大学で公衆衛生学博士、東京衛生病院健康増進部長を経て、2007年都内千代田区に開業。欧米から最新情報を集め、先端医療を用いながら、がん難病の相談・治療を行っている。

 

◆取材協力
健康増進クリニック
TEL 03-3237-1777
〒102-0074東京都千代田区九段南4-8-2山脇ビル5F

 

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