消費が急激に増え、その高額な薬価でも話題になっている免疫チェックポイント阻害剤。従来の抗がん剤とは全く異なる仕組みで、がんを退治するというこの薬について、わかりやすく解説します。
オプジーボの薬価は年間で3000万円超
がんの新薬の名前が一般のニュースで取り上げられることはあまりありませんが、免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」についての報道をよく見かけるようになりました。画期的ながん治療薬ではあるけれども、年間で3000万円以上と薬価が非常に高く、保険適用が広がった結果、このような新薬が次々と使われるようになると、医療費が増大して、財政がさらに悪化する──概ねそんな内容です。換言すればそれほど消費が一気に増えているのです。
抗がん剤は正常細胞まで巻き添えにする
免疫チェックポイント阻害剤は従来の抗がん剤とは全く異なる仕組みで、がんを退治します。がん細胞は正常細胞よりも分裂・増殖が速いという特徴があります。これに目をつけて、分裂・増殖が速い細胞を攻撃します。具体的にいうと、遺伝子を複製する際、無防備になった時に、その鎖をばらばらにしてしまうのです。問題はがん細胞だけを攻撃するわけではないことで、正常細胞まで巻き添えにしてしまいます。毛根や爪、腸内壁の細胞は分裂・増殖が早いため、抗がん剤の影響を受けやすく、副作用として脱毛や爪の変色、下痢が起こるのです。
抗がん剤の仕組み上の限界
抗がん剤にはもうひとつの仕組み上の限界があります。攻撃出来るのはあくまでも分裂・増殖中のがん細胞です。一網打尽というわけにはいかず必ず網から漏れてしまうがん細胞があり、それが再発・転移の元になる可能性があるのです。抗がん剤は時間を置いて、投与を繰り返しますが、それは副作用のダメージを回復させるためであり、もうひとつは撃ち漏らしたがん細胞を攻撃するためなのです。
がん治療の主流は免疫へ
抗がん剤の限界がはっきりしてくる中で、がんは免疫の病気であり、免疫を正常に機能させる、あるいは強化するしか、決定的な治療にはなりえないという流れが生まれつつあります。欧米ではがん治療薬としては分子標的薬が普及しています。これはがん細胞に特有の物質を見つけて攻撃することで、それ以上分裂・増殖させないようにしておいて、自らの免疫でがんを倒そうという薬です。乳がんの治療で普及しつつあるハセプチンはそのひとつです。
がん細胞は免疫抑制で生き残る
では、免疫チェックポイント阻害剤とはどのような仕組みでがんを退治するのでしょうか。それにはがんという病気の発症に大きく関わってくる免疫抑制について説明しなければなりません。がん細胞は私たちの体内で常に生まれています。しかし、免疫細胞が即座に発見して退治してしまうので、がんという病気に至ることはないのです。ところが、加齢や病気、ストレス、過度の紫外線など様々な原因でこの免疫監視が機能しなくなることがあります。さらに、がん細胞は様々な手を駆使して、免疫細胞から姿を隠したり、その働きを邪魔したりします。それが免疫抑制です。
免疫抑制を解除して自力でがんを退治
がん細胞の表面には正常細胞にはないアミノ酸が繋がった状態の物質があります。これをがんペプチドといい、免疫細胞はこれを目印に、がん細胞を攻撃するのですが、がん細胞はこれが見つからないような工夫が出来るのです。また、がん細胞は表面にPD-L1という蛋白質を出し、免疫細胞の表面にあるPD-1という蛋白質と結合させ、攻撃にストップをかけてしまいます。免疫チェックポイント阻害剤が狙っているのは、免疫細胞のPD-1にあらかじめ別の物質を結合させることで、PD-L1との結合を防ぎ、がん細胞への攻撃を邪魔させない──免疫抑制の解除です。人為的にがん細胞を殺すのではなく、自らの免疫で対処するから、副作用が少ないというわけです。
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