本庶佑博士と小野薬品工業の交渉が法廷へ
数年でがん治療薬の中でもトップクラスの売上になったオプジーボの利益配分を巡って、基礎研究を行ってきた本庶佑博士と、実用化に結び付けた小野薬品工業の間で交渉が続いていました。
本庶佑博士はオプジーボの生みの親
従来の抗がん剤とは作用機序が全く異なるがん治療薬オプジーボは、本庶佑博士の免疫チェックポイント「PD-1」の研究を基に開発されました。がん細胞は免疫細胞の攻撃から逃れるため、様々な手段でその働きを抑制します。そのひとつとして免疫細胞の一種であるT細胞表面にあるPD-1に、がん細胞に発現するPD-L1を結合させることで攻撃を出来ないようにします。オプジーボは、PD-L1より先にPD-1に結合することで、この免疫抑制を解除し、T細胞に本来のがん細胞に対する攻撃力を発揮させます。
現状の契約を見直し、226億円の支払を求める
オプジーボは既存の抗がん剤が効かなくなった患者に、著効を示すことがあり、症例の多い非小細胞肺がんに保険適用になるとともに、売上を大幅に伸ばしました。そんな中、研究者である本庶博士と実用化に結び付けた製薬会社である小野薬品工業の間で、特許収入の配分を巡って交渉が行われてきました。2006年に締結した契約が不当だとして、本庶博士が見直しを求めていたのです。この交渉は当事者間では解決せず、本庶博士は226億円の支払を求めて提訴することになりました。
我が国の基礎研究は慢性的資金難
当事者間のこれまでのやりとりや現状の契約について知らない第三者が、その是非を論じることは出来ません。ただ、本庶博士はこの特許収入を研究者を支援する基金に充当すると述べているように、我が国の基礎研究は慢性的に資金的には恵まれている環境にあるとはいえないのが現状です。この交渉の行き着くところはさておき、すぐに結果になるとは限らない基礎研究に、時間と予算を費やしてこそ、歴史を変えるような発見が生まれます。我が国はただでさえ欧米諸国に比べて、新薬の開発に関しては後塵を拝しています。そんな中、オプジーボが生まれたわけですから、これが研究者の環境改善のきっかけになることを願ってやみません。