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2018-10-03

がん免疫の主役はNK細胞であるという事実の周知徹底を

 

放映中のアニメ『はたらく細胞』では様々な免疫細胞が擬人化されて登場します。劇中、NK細胞もがん細胞との戦いを繰り広げますが、このNK細胞ががん免疫の主役であることは、医療従事者の間でさえ十分には周知されていません。その点、この作品では白血球やT細胞などのキャラクターを明確にし、細菌やウイルスと戦わせることで、その役割をわかりやすく説明出来ているのではないでしょうか。先日、放映された第7話「がん細胞」では、NK細胞が大活躍していました。

がん免疫の主役はNK細胞というイメージでしょうか?
NK細胞は免疫全体の主役とはいえません。活性が高ければ、唯一どんながん細胞でも逃さず見分けて排除するNK細胞は、がん免疫の主役です。とはいえ、がんという病気が私たちにとって大きな脅威となったのはここ数十年のことで、人類の長い歴史を振り返れば、僅かな時間に過ぎません。日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなる異常事態は、人類史全体で見ればビッグニュースですが、歴史的には人口の8〜9割が死亡、もしくは民族ごと全滅というレベルの天然痘の大流行や、総人口の何割もの方が命を落とすペスト等のほうが深刻でした。感染症の凄まじさはがんとは比較になりません。大きな脅威であった感染症に対する獲得免疫の担い手であるT細胞に、研究が集中するのは、歴史的に当然の流れです。

がんの免疫治療についても正しい認識が浸透していませんね。
がんが大きな存在になってきたのは、最近の話です。第二次大戦後、感染症対策を中心に、医療制度が設計され、予防はワクチン、治療は抗生物質と手段を決め、大学の医学部で免疫学は教えられませんでした。80年代に入っても、医薬品市場の過半数を抗生物質が占めていたくらいです。その後、時代が変わっても、感染症免疫のイメージでがん免疫治療を考えてしまう傾向が残っています。

感染症免疫の主役はT細胞ですね。
ウイルス感染細胞の退治においてはT細胞が主役です。また、樹状細胞は大量のウイルスの存在を認識すると、T細胞に出動を促すなど、指令塔的な役割をします。この仕組みを応用して、樹状細胞にがん細胞を認識させ、キラーT細胞に指示を出して攻撃させる研究が盛んに行われましたが、実際には樹状細胞はがん細胞にはあまり反応しません。

なぜ、樹状細胞はがん細胞にあまり反応しないのですか?
樹状細胞は異物である細菌やウイルス共通の物質や構造を大量に認識してはじめて警戒モードに入ります。がん細胞は患者本人の細胞なので、細胞表面の成分は正常細胞と同じです。がん細胞と正常細胞の違いは、表面物質の並び方、模様が違う──その程度に過ぎません。

近年、話題になったオプジーボも、働きかけるのはT細胞に対してですね。
欧米ではNK細胞のADCC活性を誘導して、がん細胞への攻撃力を高める分子標的薬が、従来型の抗がん剤を押しのけて主流になりましたが、日本ではまだ脇役の扱いです。オプジーボは、がん細胞がT細胞にかけている抑制を、部分的に解除するに過ぎません。がん治療は、免疫が重要との認識は広がりましたが、次は免疫細胞の中でもNK細胞が要という事実の浸透が急務です。

 

リンパ球バンク株式会社
代表取締役 藤井真則

三菱商事バイオ医薬品部門にて2000社以上の欧米バイオベンチャーと接触。医薬品・診断薬・ワクチンなどの開発、エビデンスを構築して医薬品メーカーへライセンス販売する業務などに従事。既存の治療の限界を痛感し、「生還を目指す」細胞医療を推進する現職に就任。

 

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