東京都中央区の新日本橋石井クリニックの石井光院長は、消化器内視鏡の専門医として年間3,300件以上の検査を行う傍ら、ANK療法(免疫細胞療法)で早期がんから進行がんまで多くの患者を救っています。医療現場で日々患者と向き合う中、標準治療の問題点やその補完についての啓発を行う石井院長にお話をうかがいました。
「悪貨が良貨を駆逐した結果、救える患者さんまで救えなくなってしまう」
──前回は、標準治療以外が普及していかない現状と背景についておうかがいしました。では、標準治療以外の自由診療で行われるがん治療の現状についてお聞きしたいと思います。
著名人の方ががんになると、一般の方よりも経済力があったり、情報が集まったりするので、標準治療以外にもいろいろな治療を受けることが多くなります。そして、TVや雑誌がそれを興味本位で報道します。結果的にそれらの治療が効けばいいのですが、残念ながら本当に効果があるのかどうかが疑わしい治療が殆どです。怪しげな民間療法は論外ですし、医師が医療機関で提供している治療の中にも、そんなお粗末な治療紛いの行為が横行しているのです。
──このところ、標準治療以外のがん治療に対するネガティブな報道が目につきますが……
患者さんは何とか治したい、生きたいという思いだと思います。医師とはそんな気持ちと正面から向き合う仕事のはず。それなのに、切実な思いに付け込んで酷いことをやっているのだから、批判はもっともなこと。問題は、そんな報道があると自由診療の全てが怪しげだと思われかねないことです。真っ当な治療まで十把ひと絡げに否定されてしまうのです。悪貨が良貨を駆逐した結果、救える患者さんまで救えなくなってしまうのです。
「がんに関する情報は患者の命と健康を左右する」
──メディアの姿勢、見識にも問題がありますね。
我が国の憲法では言論の自由が保障されています。メディアは自由に意見を述べて、その是非を判断するのは、受け取る側の責任に委ねられています。しかし、がんに関する情報は患者の命と健康を左右するわけですから、そこには分別や良心がなければいけないと思います。かつて著名な大学病院に勤務する医師が、がんを放置せよと訴えて、大きな話題になりました。抗がん剤の副作用が認識されるようになった時代背景もあり、彼は大きな影響力を持ち、今でも「信者」とでもいいたくなるような支持層を抱えています。その原動力となったのは彼の著書を出版し、雑誌等でもその考え方を一方的に垂れ流したある出版社です。しかし、がんを放置せよという現役の医師の意見が、どれだけの患者さんを手遅れにしてしまったか──万死に値するのではないでしょうか。
──著名人ががんになった際の報道でも、様々な医師のコメントがありますが……
医学は日進月歩しています。患者さんと向き合うためには、常に勉強が求められますが、それすらも怪しい医師がTVや新聞、雑誌などでお粗末なコメントをしているのが、目につきます。特にがんと免疫について正しく知り得ていない医師が多いことには、驚きすら感じます。分子標的をがん細胞だけを殺す薬だといってみたり、最近の抗がん剤はよくなっているといってみたり……。いずれも間違いです。分子標的薬はがん細胞に特異的な蛋白質に作用して、増殖を食い止めますが、標的となる蛋白質を発現していれば、正常細胞でも影響を受けます。また、抗がん剤というのは半世紀以上前から基本的に何も変わっていません。
石井光
新日本橋石井クリニック院長。昭和47年、日本医科大学卒業。東京女子医科大学外科入局後、埼玉医科大学消化器内科助手、城西歯科大学内科非常勤講師、旭ヶ丘病院副院長、米国マウントサイナイ病院客員研究員、水野病院内科部長を経て平成8年に新日本橋石井クリニックを開業。著書に『医者の罪と罰』『医者の嘘 あなたの健康寿命が延びる、国民医療費を減らす42の提言』『がんと診断されたらANK免疫細胞療法』など。
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