岡山大学のグループが糖尿病治療薬「メトホルミン」に免疫細胞の疲労を回復させ、がんに対する攻撃力をアップさせる働きがあることを発表しました。ちなみにこのメトホルミン、1回の費用はたった30円です。
メトホルミン投与で腫瘍が縮小
糖尿病治療薬「メトホルミン」に免疫細胞ががん細胞を攻撃する際の疲弊を回復させる働きがあることを、岡山大学の鵜殿平一郎教授らのグループが実験で確認し、このほど日本がん免疫学会で発表しました。糖尿病ではないマウスにがん細胞を移植し、胆がんマウスを作成。飲み水を介してメトホルミンを与えたところ、腫瘍が縮小したのです。
がん患者の免疫細胞は機能していない
がん細胞の周囲のリンパ節では免疫システムの伝達係である樹状細胞が、がん抗原であるペプチド(アミノ酸が複数つながった状態)を目印として指示し、これを目印にして、CD8T細胞ががん細胞を攻撃します。CD8T細胞は自らがん細胞を殺傷すると同時に、サイトカインという物質を分泌し、免疫システムをさらに刺激します。がん患者の血中にはこのCD8T細胞が存在するにもかかわらず、腫瘍に浸潤すると、急速に疲弊して細胞死してしまうため、がん細胞を攻撃する力を、十分に発揮出来ないことがわかっていました。
がん細胞は免疫細胞に反撃する
CD8T細胞はがん細胞を攻撃する過程で、増殖しながらエフェクターCD8T細胞へと分化していきます。その細胞膜表面に現れるPD1などの免疫チェックポイント分子に、がん細胞から信号が送られると疲弊してしまうのです。これががん細胞の発生から増殖の背景「免疫抑制」という現象です。幾ら免疫細胞が頑張ろうとしても、強かながん細胞は黙って攻撃されているわけではなく混乱させたり反撃してくるのです。いいかえればこの免疫抑制を打ち破り、免疫を正常に機能させることが、がん克服の要となります。
メトホルミンで免疫細胞が増加・機能回復
今回の実験ではCD8T細胞が欠損したマウスでは腫瘍は縮小せず、腫瘍が縮小したマウスを分析したところ、腫瘍に浸潤したCD8T細胞の増加と機能回復が、はっきりとわかりました。がん治療の主流は完全に免疫にシフトしています。これからこのメトホルミンの研究が進めば、免疫細胞療法、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤、そして従来の標準治療と組み合わせることで、さらに治療の選択肢が増えることでしょう。
メトホルミンは1回わずか30円
そして、もうひとつ大きなことは薬価の問題です。新薬の価格高騰が問題になっていますが、糖尿病の治療薬として何十年も使用されてきたメトホルミンは、1回わずか30円程度。全て自由診療で処方したとしても、全く無理のない金額です。肺がんへの保険適用で一気に消費が増えた免疫チェックポイント阻害剤は、このところ、その高額ゆえの医療費負担の増大が問題視されています。こうした既存の安価な手段の中で新たな可能性を摸索することも、十分に検討の余地があるのではないでしょうか。
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