ワクチンと免疫とがんの関係
ワクチンは、免疫を刺激し、感染症を予防することが目的です。一方、免疫の病気であるがんにも、ワクチンによる治療があります。
ウイルスの目印を免疫細胞に学習させておく
新型コロナウイルスワクチンの接種が進んでいます。ワクチンは、免疫を刺激し、特定の病気を予防、治療するものですが、その仕組みについて簡単に説明します。私たちの体には免疫という優れた防御システムが備わっています。細菌やウイルスなど異物の体内への侵入を常に監視しており、発見次第、それを迅速に排除します。もう少し詳しく書くと、異物の目印を抗原として認識すると、その抗原を目印に攻撃するよう、全身の免疫細胞に指示が出るのです。そして、ワクチンの役割は、ウイルスの一部の蛋白質を無毒化して投与したり、その蛋白質を体内で合成する遺伝子を投与したりすることで、ウイルスが侵入してきた時に、すぐに免疫細胞が攻撃出来るように学習させておくことです。もちろん、ウイルスが変異し、目印に使っていた蛋白質が変化してしまうと、ワクチンの効果はなくなります。そこで、変異の活発な新型コロナウイルスに対しては、出来るだけ変異の少ない部分を抗原にしたり、変異した場合には迅速に新しいワクチンを開発したりといった対応が求められています。
一方、がんは、免疫が十分に機能しなかった結果、異常な細胞がどんどん増殖していった結果です。がん細胞も異物であり、免疫が正常なら、迅速に排除され、がんという病気にはなりません。がんは免疫の病気なのです。そこで、免疫を目覚めさせるために、がん細胞の一部などを投与し、免疫を回復させる治療が試みられ、「がんワクチン」という名称がつけられています。問題は、がん患者の免疫は、がん細胞によって強力な抑制状態にあり、がん抗原を認識しても、なかなかがん細胞を攻撃してくれないことです。がん細胞に特有の遺伝子の変異であるネオアンチゲンを元に作られた人工のがんワクチンは、単独ではなくインターロイキン2など免疫を刺激する薬と同時に使用されます。