がん患者が新型コロナウイルスワクチンを接種する前に知っておきたいこと
新横浜かとうクリニック院長 加藤洋一
2021年2月17日、日本初の新型コロナウイルスワクチンの接種が始まりました。約4万人の医療従事者への先行接種です。がんなどの既往症のある方は、「早くワクチンを接種して欲しい」という方と、「副反応が怖いからどうしようか迷っている」という方がいらっしゃると思います。がんを専門に治療を行っている新横浜かとうクリニックの加藤洋一先生に、がん患者さんが新型コロナウイルスのワクチン接種を受ける際に知っておいた方がいい知識や、感染予防対策について詳しくお話を伺いました。
Q.新型コロナウイルスのワクチンの種類が多すぎて混乱します
新型コロナウイルスワクチンは6種類あります。
1つめは、不活化ワクチン。これは日本でも開発可能です。ウイルスを卵や培養液で培養し、感染しないように不活化(無毒化)して作ります。この方法はウイルスが変異したり、漏れたり、効果が弱かったり、試行錯誤が多いため開発に時間がかかります。
2つめは、RNAワクチンです。リポフェクションという方法でヒトの細胞膜と同じ脂質二重層のカプセルにコロナウイルスの一部の遺伝子mRNA(メッセンジャー・アール・エヌ・エー)を閉じ込め、体内に注入します。ヒト細胞膜と同じ構造なのでカプセルと細胞膜が一体化し、mRNAが細胞内に取り込まれます。この方法は、注射してから細胞にうまく届かなかったのですが、今回のファイザー社のワクチンは改良され、問題点を克服しています。安全性からもこのワクチンに期待する声が大きいです。
3つめは、DNAワクチンです。大阪大学とアンジェス社のDNAワクチンは、高血圧や難病の治療での活躍が今後期待されていますが、今回のウイルスのワクチンは、細胞内への取り組みから免疫獲得までの時間がかかるので、新型コロナウイルスの感染拡大防止の効果が弱いのが欠点です。RNAワクチンの欠点は、効果期間が半年程度というところですが、DNAワクチンは作用期間を長くできる利点があり、今後の開発に期待です。
4つめは、ウイルスベクターワクチンです。アストロゼネカ社のワクチンは、チンパンジー由来のアデノウイルスにmRNAを組み込んだもの。このアデノウイルスベクターは、ウイルスなので上述のワクチンよりも簡単に細胞に入り込むことができ、新型コロナウイルスのスパイク蛋白質を作ります。開発が簡単という利点もあります。しかし、ウイルスのためヒトに感染するとワクチンに対する抗体が作られ、2回目の接種では既に抗体があるため、すぐに壊れてしまいます。チンパンジー由来なのでヒトでは抗体が作られにくいという話もあります。中国ではアデノウイルスベクターのワクチンが主流です。以前行われた腎臓がんの治験では、結膜炎や咽頭炎の副作用、尿から排泄されるなどリスクが報告されています。これらの諸問題を解決できれば、簡単で安く大量に生産できる素晴らしい薬になるはずです。しかし、現時点の使用には疑問が残ります。
5つめは、ウイルス粒子ワクチンです。新型コロナウイルスの中身を抜いて皮だけを投与します。中身がないので増殖できない、皮の表面にスパイクがあり、そのスパイクに対する抗体が作れます。
6つ目は、蛋白ワクチンです。新型コロナウイルスのスパイク蛋白の一部を合成した蛋白を作ります。それを投与することで抗体が作られます。5つめは1つめの方法の改良型、6つ目は蛋白合成に費用がかかり実用化が難しい状況です。
Q.がん治療目的の遺伝子治療や免疫細胞療法は、副反応的に新型コロナウイルスにかかりにくくなる?
樹状細胞療法は、がんのみに反応する免疫を接種します。樹状細胞に「がん細胞をやっつけろ」という命令を記憶させるのです。そのため、新型コロナウイルスに対しては攻撃をしません。しかし、がんの免疫とウイルスの免疫は同じシステムを使用しているため、樹状細胞療法でリンパ球を増やし、活性化することで、ウイルスの免疫も上がるという相乗効果があります。リンパ球治療とNK細胞療法でがんの免疫を上げることで、ウイルスの免疫も上がるというわけです。
結局、新型コロナウイルスのワクチンも、直接ウイルスをやっつけるのではなくて、自分の体内の免疫細胞であるリンパ球がウイルスに特異的な免疫を作ることで作用します。このため、がん患者さんでリンパ球が少ない方は、リンパ球治療やNK細胞療法を受けてリンパ球を増やした方が、ワクチンの効果も上がり、がんの免疫も上がるという相乗効果が得られるというわけです。
Q.それでは、がんの各種免疫療法と、新型コロナウイルスのワクチンを、一緒に受けても大丈夫ということですね?
リンパ球がワクチン接種で効果を出すためには重要で、がんの治療にも同じことがいえます。このリンパ球は、大学病院などの血液検査の結果「リンパ球数」というデータを見るとわかります。リンパ球数は、血液 1μL当たり1500個以上ないと、新型コロナウイルスにかかった際に重症化し易いといえるでしょう。加えてがんに対する免疫力が低下しているので、リンパ球が1500個を下回っていれば、免疫細胞を増やしてあげる治療を受けるのがいいと思います。
Q.リンパ球数が1500個以下の方は、新型コロナウイルスのワクチンを接種しても大丈夫ですか?
リンパ球数が少ないと免疫獲得が弱く、発症予防効果(新型コロナウイルス感染に罹らない)という効果はありませんが、重症化予防効果は期待できるため、ワクチン接種を勧めます。
リンパ球数が低い方は、まず、抗がん剤治療や放射線治療を2週間程度延期して、リンパ球数を増やす工夫や、緊急事態宣言等で病院にコロナ患者が多い時期は、手術や抗がん剤治療を延期する。「がん治療のコロナ休暇」を主治医に提案してください。しかし、病院に行かずにがんを放置しろということではありません。検査は必ず、定期的に受け、免疫が上がる生活を心がけましょう。
医療法人社団神樹会
新横浜かとうクリニック
院長 加藤洋一
平成20年、新横浜かとうクリニック院長。平成22年、医療法人社団神樹会理事長。平成23年、横浜市港北区港北医療センター理事・横浜市医師会代議員・神奈川県医師会代議員・横浜市外科医会学術担当理事・聖マリアンナ医科大学放射線講師。平成27年、一般社団法人横浜市港北区医師会副会長・港北医療センター副センター長。平成29年、横浜外科医会副会長。
新横浜かとうクリニック
〒 222-0033 横浜市港北区新横浜2-6-13新横浜ステーションビル8階
TEL 045-478-6180
診療時間 10:00~18:00 休診日 木曜・日曜・祝祭日
https://katoclinic.info/