シンプルで実効性のあるがんゲノム医療
いろいろ不備のあるがんゲノム医療ですが、すぐに実効性を発揮出来るやり方があります。
遺伝子の変異に応じて効果的ながん治療を選択
国ががんゲノム医療を推進する中、がん患者の遺伝子の変異を包括的に調べ、最適な治療を選択する上での判断材料とするがん遺伝子パネル検査が、いよいよ保険適用となりました。がんは遺伝子の変異で異常な細胞が発生し、それが大きな腫瘍になった結果であり、どのような変異があるのかが明らかになれば、がんの性質がわかります。そして、近年のがん治療薬は、がん細胞が遺伝子の変異によって特異的に発現している蛋白質などを目印に作用します。従来、抗がん剤はがんの部位別に使われてきましたが、がんは出来た場所が同じでも、細胞の単位では様々な性質を持つので、より適した分子標的薬を選択することに繋がるわけです。
効果の期待出来る分子標的薬が保険適用だとは限らない
とはいえ、効果の期待出来そうな分子標的薬が見つかっても、それが保険診療で使えるとは限りません。オプジーボの薬価は象徴的ですが、近年、がんの新薬は薬価が高騰しています。年間で千万円単位の薬価になることは珍しくないため、費用の面で治療を諦めざるをえないケースは出てくるでしょう。がん遺伝子パネル検査はそれなりにコストがかかります。そこまでやっても効果の期待出来る分子標的薬が見つかる患者は、全体んも1~2割とさえいわれています。また、見つかっても上記のような不幸な事態になりかねません。
がんの部位ではなく遺伝子の変異に応じて分子標的薬を使えるように
それよりも同じがんの遺伝子に目を向けるなら、もっとシンプルなやり方があります。例えばハーセプチンという分子標的薬は、HER2という蛋白質を発現しているがん細胞の増殖を抑制します。進行の速いがんに多く見られ、欧米ではがんの部位を問わず使われていますが、国内では乳がんと胃がんにしか保険適用になっていません。HER2の発現は遺伝子の変異の結果ですが、これは簡単な血液検査でわかります。HER2が発現していれば、がんの部位を問わず保険診療で使えるようにすること──これこそ実効性のあるがんゲノム医療ではないでしょうか。