がん遺伝子治療の今を俯瞰する
手軽な遺伝子検査が普及したり、国ががんゲノム医療を推進したり、遺伝子が身近な話題に挙がることが多くなりました。
がんは遺伝子の異常で起こる病気
今世紀に入って、ヒトのゲノムが全て解読されました。がんは遺伝子の異常で起こる病気です。標準治療でなかなかがんで亡くなる方が減らない中、遺伝子という根本からのアプローチが試みられるのは当然のことです。しかし、様々な規制や倫理上の問題があり、我が国では遺伝子の医療、特にがん治療への活用は遅れているといわざるを得ないのが現状です。
がんゲノム医療が来春、保険適応に
現在、国はがんゲノム医療を推進しています。全国に中核拠点病院と連携病院を設置し、遺伝子を活用したがん治療を広めようとしています。内容を具体的にいうと、がん患者の遺伝子の変異を明らかにすることで、がんの性質を知り、効果の期待出来る治療を絞り込もうということです。がん治療薬の主流となりつつある分子標的薬は、遺伝子の変異によってがん細胞に特異的に発現する蛋白質を目印に作用するからです。このがん遺伝子パネル検査は来春には保険適用になる見込みです。
保険制度はがんゲノム医療に対応出来ていない
保険診療で出来ればより多くの方ががんゲノム医療を受けられるようになります。しかし、問題は残されています。現状の保険制度では肺がん、胃がん……などがんの種類や進行の度合いで使える薬が決まっています。遺伝子の変異によって薬を絞り込めても、それが保険適用でないという状況が起こり得るのです。この場合、治験の対象でもない限り、費用は全額自己負担となります。また、同じ医療機関で保険診療と自由診療は併用出来ませんから、先進医療でなければ患者申出療養という仕組みを使って、承認を得る必要があります。制度面では不十分なところが多いのです。
直接、がんを遺伝子で治療する時代へ
将来的には具体的に遺伝子にアプローチするがん治療も浸透していくでしょう。現在でも患者の異常な遺伝子を人為敵的に作った遺伝子で補う治療は、自自由診療で行われています。がんに関連する遺伝子としては、細胞の分裂・増殖に関する遺伝子が壊れたがん遺伝子と、遺伝子の異常を修復して細胞のがん化を防いだり、それが難しい場合には細胞死に誘導するがん抑制遺伝子があります。こうしたがん関連遺伝子を外部から導入するのです。また、中国などでは遺伝子そのものを編集する治療も一部で盛んに行われているようですが、効果や安全性は未知数としかいえません。