ノーベル賞で注目されるがん治療における免疫の重要性
本庶佑京都大学特別教授がノーベル賞を受賞したことで、がんと免疫の関係を知った方は多いのではないでしょうか。
免疫チェックポイント「PD-1」の発見がオプジーボを生んだ
今年度のノーベル賞の授賞式が行われ、医学生理学賞を受賞した京都大学特別教授に、メダルと賞状が授与されました。本庶教授は免疫チェックポイント「PD-1」を発見し、これをがん治療に活用する研究を続けてきました。この研究が免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」という画期的な新薬の誕生に繋がったことは、周知の通りです。今回の受賞によってこれからのがん治療の鍵が免疫であることが、より周知されていくことでしょう。
がん細胞は生き延びるために免疫を抑制する
私たちの体内は免疫によって常に監視されており、異物を発見すると、迅速に排除されます。ウイルスや細菌などの侵入物はもちろん、がん細胞も例外ではありません。加齢やストレス、紫外線、水や大気の汚染などによって私たちの体内では毎日何万個ものがん細胞が生まれています。これを常に免疫が監視し、分裂・増殖を繰り返して、大きな腫瘍になる前に排除しているのです。ところが、がん細胞は様々な手段で免疫を抑制し、攻撃を逃れて生き延びようとします。そのひとつとして免疫細胞の一種であるT細胞表面のPD-1に、がん細胞のPD-1を結合させて、攻撃にブレーキをかけてしまいます。オプジーボはがん細胞より先にPD-1に結合し、ブレーキを解除します。
免疫が十分に機能していればがんにはならない
免疫が万全であれば、がんという病気にはなりません。また、がん細胞によって抑制されている免疫が目覚めれば、進行がんであっても消失させてしまいます。米国の外科医であったウィリアム・コーリーは重篤な感染症で高熱を出した患者の骨肉腫が消失したことに着目し、がん患者を意図的に丹毒に感染させたり、細菌を使ってがんを治療するコーリー・ワクチンを作ったりしました。生死に関わるような強い刺激で、がん患者の免疫を目覚めさせたわけです。
抗がん剤は免疫の機能を低下させる
しかし、標準治療は免疫にダメージを与える行為といっても差し支えありません。特に抗がん剤は免疫細胞の数を減らし、活性を落としてしまいます。がん治療において免疫が重要であることはわかっているのに、それに逆行するような治療を行ってきたのです。がんの新薬は、分裂中の細胞を殺す抗がん剤から、がん細胞に特異的な蛋白質を目印に作用する分子標的薬が主流になってきました。分子標的薬は直接、がん細胞を殺すのではなく、がん細胞の分裂・増殖を抑え、後は免疫によってがん細胞を攻撃します。また、分子標的薬の多くは、ADCC活性といって免疫細胞を刺激する性質を持つものがたくさんあります。しかし、従来の抗がん剤と分子標的薬を併用してしまうのが標準治療なのです。
抗がん剤、ガイドラインに縛られたガラパゴス状態
標準治療はガイドラインといって症例に基づいたルールによって治療が決まっています。既存の治療のベースに抗がん剤があれば、なかなかそのルールを覆せないのが実情です。 オプジーボの登場、本庶氏のノーベル賞でがんと免疫の関係が大きくクローズアップされました。免疫ががん治療を変えていくというような報道もたくさんありました。しかし、欧米では分子標的薬が主流になっているように、免疫ががん治療の鍵であることは、既に世界標準なのです。免疫を機能させることに逆行する抗がん剤、それを使うことをルールとした標準治療が主流の我が国は、がん治療においてはガラパゴス化していたということでしょう。