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2018-12-07

本庶佑氏「2050年には殆どのがんが免疫療法で治療出来る」

ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑京都大学特別教授が、授賞式を前に記者会見を行い、免疫療法ががんを征圧する大きな可能性に言及しました。

PD-1の発見がオプジーボを誕生させた
ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑京都大学特別教授が、授賞式を前に、スウェーデンにあるカロリンスカヤ研究所で記者会見を行い、「2050年には殆どのがんが免疫療法で治療出来ると確信している」と語りました。本庶教授は、がん細胞を攻撃するT細胞表面に発現し、がん細胞がそこに働きかけることで、攻撃にブレーキをかけるPD-1という免疫チェックポイントを発見し、これをがん治療に活かすことを研究しました。その結果として生まれたのが、PD-1に結合することで、がん細胞からの働きかけを抑制する免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」です。

標準治療が行き詰まる中、免疫ががん治療に鍵に
保険診療で行われる標準治療においては、目に見えるがんを手術や放射線で叩き、抗がん剤で殺す三大療法が柱となっています。しかし、がんは細胞の単位で存在し、ひとつでも取り残せば、そこから再発や転移に繋がります。理論上、がん細胞を完全に排除出来ない三大療法では、全身にがん細胞が散らばった進行がんの治療としては不十分なのです。免疫は日々、体内を監視し、がん細胞が見つかり次第、迅速に排除します。免疫が十分に働いていればがんにはなりません。しかし、がん患者の体内ではがん細胞によって様々な形で免疫が抑制されているのです。三大療法頼みのがん治療が行き詰まる中、免疫をいかに回復させるかは、がん治療の鍵になっています。

オプジーボが、がん治療における免疫の重要性を認知させた
欧米では化学療法の主流は、分裂中の細胞を攻撃する殺細胞剤から、がん細胞に特異的に発現する蛋白質を目印に作用し、がん細胞の増殖を抑制する分子標的薬に移っています。薬の力でがんの勢いを食い止め、後は患者自身の免疫によってがんを退治するわけですが、分子標的薬の多くはADCC活性といって免疫を刺激する働きも持っています。化学療法だけを見ても、欧米では免疫でがんを治療するという考えが浸透しているのですが、我が国ではまだ分子標的薬の保険適応は十分とはいえません。しかし、オプジーボの登場や、本庶特別教授のノーベル賞が話題になることによって、我が国のがん治療においても免疫の重要性が認知されるようになったのは喜ばしいことでしょう。

オプジーボだけが本当の免疫療法という間違った意見
冒頭で本庶特別教授が述べたように、がんの免疫療法はどんどん研究が進められ、近い将来にはがんを征圧してしまうことが、十分考えられます。しかし、免疫の重要性が周知されている中で、一部のメディアなどでは保険適応になっているオプジーボなどの免疫チェックポイント阻害剤だけが本当の免疫療法であるというような記事を目にします。オプジーボが、がん細胞によるブレーキを解除するのは、がん免疫では主役とはいえないT細胞です。T細胞は数こそ多いのですが、膨大な数のタイプがあり、自分の攻撃対象でなければ、がん細胞が目の前にいても攻撃しません。タイプが合致する確率は数百万分の1とさえいわれます。また、T細胞はがん細胞を認識して攻撃していないため、暴走すると自己免疫疾患という重篤な副作用を起こすことがあります。オプジーボが奏効するのは1~2割、副作用は1割前後の患者に起こります。そのあたりはしっかり認識しておくべきでしょう。

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