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2018-01-30

免疫チェックポイント阻害剤もCAR-T療法も真打たりえない理由

最近、大きな話題になったがん治療といえば、免疫チェックポイント阻害剤のオプジーボ、そしてCAR-Tでしょう。しかし、どんながんに対しても決定打になるとはいえません。

抗がん剤中心から免疫重視に
従来、標準治療という対症療法一辺倒だった我が国のがん治療が、免疫重視に舵を切りつつあります。抗がん剤の副作用が周知されるようになり、免疫チェックポイント「オプジーボ」の保険適応、最近のCAR-T療法の登場などがきっかけになったといえるでしょう。標準治療の柱である三大療法(手術・放射線・抗がん剤)は、いずれも人為的にがんを破壊します。しかし、患者には負担が大きい反面、がんを完全に制圧出来ず、再発や転移のリスクが残ってしまいます。それならば体に備わっている免疫の力を回復させて、がんを退治しようということです。そもそも免疫は日々生まれるがん細胞を排除しており、十分に機能していれば、がんという病気にはならないのです。

オプジーボが解除する免疫抑制は、ほんの一部
しかし、結論からいえば、免疫チェックポイント阻害剤もCAR-T療法も決定的ながん治療にはなりえません。免疫の力を存分に活かせる治療とはいえないからです。がん細胞は様々な手段で免疫細胞の攻撃から逃れていますが、そのひとつとしてT細胞(免疫細胞のひとつ)の免疫チェックポイントに作用して攻撃が出来ないようにしてしまいます。例えばオプジーボはこの免疫チェックポイントにがん細胞よりも先に作用して邪魔をさせなくしてしまうのです。しかし、このT細胞はがんに対する攻撃は極めて限定的です。T細胞には幾つものタイプがありますが、目の前のがん細胞が、自分が攻撃するタイプでなければ見向きもしません。その確率は数万分の一とさえいわれます。がん細胞による免疫抑制を解除するといっても、本当に一部に過ぎません。

キムリアは正常なB細胞まで攻撃する
一方、 T細胞を遺伝子改変し、がん細胞への攻撃力を高めて、患者の体内に戻すのがCAR-T療法です。先日、米国で血液のがん(免疫細胞のひとつであるB細胞のがん)を対象に承認されたキムリアを例に挙げると、これはがん細胞だけを攻撃するCAR-Tではありません。CD19という蛋白質を目印に細胞を攻撃するのですが、CD19はがん化したB細胞だけでなく正常なB細胞にも存在します。とりあえずB細胞を攻撃し、正常なB細胞を攻撃したことによる副作用には、相応に対処しようという治療になります。がん細胞だけを見分ける目印は、今のところは見つかっていないから、これが限界なのです。細胞のがん化がシンプルな血液がんだから有効な治療であって、固形がんで実用化するには、まだ課題が残ります。

T細胞を使うがん治療の限界

いずれもT細胞を使うということに限界があるのです。T細胞は全てのがん細胞を見逃さずに排除してくれるわけではありません。それが可能なのはNK細胞だけです。実は欧米ではがん治療薬の主流は既に分子標的薬になっており、我が国のように抗がん剤は使われなくなっています。分子標的薬はがん細胞に特異的な蛋白質を目印に作用し、増殖を抑えますが、同時にADCC活性といってNK細胞を中心とした免疫によるがん細胞の排除を後押しするタイプが、大半を占めています。欧米のがん治療は既に何年も前から免疫重視。その主役はNK細胞なのです。いまだに抗がん剤が主役であり、T細胞を扱う治療が話題になって、やっと免疫に光が当たる我が国は、海外との格差があるといっても過言ではありません。

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