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2017-01-12

副作用のない抗がん剤が存在した(前編)

副作用のない抗がん剤。昨年のノーベル化学賞の候補にも挙げられた前田浩熊本大学名誉教授の開発したP-THPは、そんな夢のような話を実現しています。まずはその仕組みを解説します。

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抗がん剤治療はいわば焦土作戦
がんを叩くという意味では、一番強力なのは標準治療です。しかし、手術や放射線では細胞単位で存在するがんを、全て取り去ることは不可能です。また、抗がん剤はがん細胞だけを選んで攻撃するわけではなく、がん細胞が頻繁に分裂する点に着目し、分裂中の細胞のDNAをばらばらにすることで殺すので、分裂中の正常細胞を巻き添えにします。このため、重い副作用に苦しめられることになり、かえって余命を縮めることになりかねません。抗がん剤を使うということは、敵を倒すために、自らの領地を爆撃する焦土作戦といえます。そして、敵であるがん細胞を根絶やしにする前に、多くの患者が力尽きてしまうのです。


がん細胞だけに薬を送り込むから副作用がない
副作用のない抗がん剤。がん治療の現状を知っていれば、それが夢のような話に聞こえるでしょう。しかし、そんな抗がん剤が存在します。昨年、ノーベル化学賞の候補として名前が挙がった前田浩熊本大学名誉教授の開発したP-THPです。前田教授はがん細胞だけに薬を送り込むドラッグ・デリバリー・システムを研究していますが、このP-THPはがん細胞だけに抗がん剤を送り込むため、正常細胞には影響せず、副作用が起きないのです。 

正常な血管と腫瘍の血管の違いに着目
血管は全身を巡っていますが、血液に溶けた栄養や酸素は、血管の小さな隙間から漏れていくことで、体の様々な部位に届けられます。抗がん剤を投与した際も同様です。血管から漏れた先々で、分裂中の細胞を攻撃してしまいます。ところで、腫瘍にも血管は通っているのですが、正常な血管との違いは、隙間が段違いに大きいことです。そこで抗がん剤の分子を正常な血管の隙間は通れないが、腫瘍の血管の隙間は通れる大きさにしてしまえばよいのではないかと考え、高分子のポリマーを繋いだのがP-THPなのです。実はP-THPのベースになっているのは、ピラルビシンという既に特許の切れた古い抗がん剤です。この仕組みによってP-THPは腫瘍を狙って送り込むことが出来ます。そして、ピラルビシンとポリマーは酸性の環境では離れるようになっていますが、腫瘍の周囲はがん細胞の老廃物で酸性の海といえる状態です。

がん細胞は正常細胞よりブドウ糖が必要
がん細胞は頻繁に分裂するため、正常細胞よりも多くのエネルギーを必要としており、ブドウ糖を盛んに取り込んでいます。ピラルビシンにはブドウ糖に似た分子が繋がっているので、がん細胞はブドウ糖と間違えて取り込んでしまいます。P-THPは既存の抗がん剤にポリマーを繋げただけの薬といえますが、これによって他の抗がん剤の何百倍も取り込まれることになります。

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