2017-01-11

うつ病の薬が悪性脳腫瘍の進行を抑える

既存の薬から別の効果を見つけ出す研究が進んでいます。体内での作用や安全性が確認されているため、開発コストが軽減出来るという大きなメリットがあるからです。昨年、うつ病の治療薬「フルボキサミン」が悪性の脳腫瘍「膠芽腫」の浸潤を防ぐことが明らかになりました。

膠芽腫が厄介なのは治療手段がないこと
膠芽腫は脳腫瘍の中でも最も悪性のがんです。週単位で症状が悪化するほど、進行が早く、1年生存率は約50%、5年生存率は約7%と、多くのがんの中でも最悪の部類に入ります。問題なのは治療手段がほぼないことです。周囲に浸潤しやすいため、手術で取り除くことが難しく、抗がん剤も効果がありません。そんな厄介な膠芽腫ですが昨年、岡山大学と熊本大学の研究チームが既存の抗精神薬で進行を遅らせる効果があることを突き止めました。

脳腫瘍マウスの生存日数がフルボキサミンで約15%改善
膠芽腫は、がん細胞が周囲に浸潤する際、特定の蛋白質を糸のように重ねて、正常細胞の表面から入り込んでいきます。この蛋白質の働きを抑える成分を探したところ、うつ病の治療に使われるフルボキサミンに高い効果があることを発見しました。ヒトの膠芽腫細胞にフルボキサミンを加えて培養したところ、この糸のように重なった蛋白質が減り浸潤性がなくなりました。また、脳腫瘍のマウスをフルボキサミンで治療したところ、生存日数が30.8日から35.3日に約15%改善しています。劇的な効果というわけではありませんが、膠芽腫は今までこれといいった治療が存在しなかっただけに、進行を遅らせることで、新たな治療の可能性が出てきます。

風邪薬の成分が膀胱がんの転移を防ぐことも判明
オプジーボなど新薬の価格の高騰が問題視されていますが、安全性がある程度確認されている既存薬であれば、開発コストは軽減出来るため、薬価も抑えることが出来ます。以前には風邪薬に含まれる一般的な成分「フルフェルナム酸」が、膀胱がんの転移を防ぐという研究発表についてお伝えしましたが、今後も同様の研究の成果を待ちたいところです。