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2018-11-30

米国が国家プロジェクトで効果を確認した免疫細胞療法  

本庶佑氏のノーベル賞受賞でオプジーボが脚光を浴びています。しかし、オプジーボを含めた免疫チェックポイント阻害剤が、はじめての実用的ながん免疫治療のような論調は、明らかに誤りです。がん先端医療を手がけるリンパ球バンク代表の藤井真則氏に、お話を伺いました。

──本庶佑氏がノーベル賞を受賞されたことで、免疫ががん治療の鍵であることが注目されていますが……。
注目を集めたのはその通りですが、欧米では以前から免疫治療が主流になっています。日本でも一部、保険診療に組み込まれている分子標的薬です。特にがん免疫の主役であるNK細胞の攻撃力を高めるADCC活性を作用機序とするものが重視されています。オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害剤は補助的な役割を担うT細胞を動員するものです。

──これまでにも効果を証明された免疫治療があるのですね?
患者さんの免疫細胞を体外で培養して戻す免疫細胞療法としては、LAK療法が原点です。NIH(米国国立衛生研究所)が行った臨床試験では、患者さんから約50lもの血液を循環採取します。そこから分離採取した免疫細胞に、インターロイキン2を大量に加えて刺激し、3日間培養します。これを点滴で戻すという大変大がかりな治療です。既に抗がん剤が効かなくなった患者さん数百名を対象に、全員に何らかの効果が確認されました。

──LAK療法は後年の検証であまり効果がなかったとされていますが……。
後年の検証は、スケールを縮小して行われました。最後は採血量を20mlまで減らします。NK細胞は増殖が遅いので、この程度の採血量では十分な細胞数を確保することが出来ません。NIHが行った臨床試験は、ICUを占拠して実施されました。巨大な腫瘍が壊死を起こした結果、カリウムショック等の副作用で死亡リスクがあったからです。それほど威力のある治療だったのですが非現実的なコストがかかり実用化は見送られました。

──がん免疫の主役はNK細胞なのですね。
そうです。攻撃力においても、がん細胞だけを傷害出来る認識精度においても、NK細胞に比肩できるものはありません。問題は、NK細胞は培養が大変困難だということです。大量の採血、大量のインターロイキン2、短期間の培養……と力業でそこを克服しようとしたのが米国のLAK療法。その後、培養が容易なT細胞に研究対象がシフトします。攻撃力が弱いT細胞の遺伝子を改変し、無理やり攻撃性を高めたCAR-Tも、承認取得に至りました。但し、T細胞は正常細胞も攻撃するので、オプジーボと同じく副作用として自己免疫疾患を招きます。

──LAK療法以降の免疫細胞療法について教えてください。
当社(リンパ球バンク)の創業者である勅使河原計介医学博士が米国ダートマス大学で研究中、LAK療法を実施したM・ロッテ医学博士は「NK細胞の活性を高めながら、NK細胞だけを選択的に増殖出来れば、世界のがん治療は変わる」と語ったそうです。そして、帰国後、大久保祐司医師とふたりで取り組んだ結果、有効性を確認されたNIH法を上回るNK細胞の活性と数を実現し、さらに分割投与によって安全性を確保することに成功したのです。

リンパ球バンク株式会社
代表取締役 藤井真則

三菱商事バイオ医薬品部門にて2000社以上の欧米バイオベンチャーと接触。医薬品・診断薬・ワクチンなどの開発、エビデンスを構築して医薬品メーカーへライセンス販売する業務などに従事。既存の治療の限界を痛感し、「生還を目指す」細胞医療を推進する現職に就任。

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