前立腺がんを進行させる男性ホルモンであるテストステロンを、大量に投与したところ、症状が進行するどころか、多くの患者で進行が止まり、中には寛解した患者もいるという興味深い報告がありました。
通常の治療ではテストステロンの分泌を抑制
近年、我が国でも患者が増えている前立腺がん。このがんは男性ホルモン(テストステロン)によって大きくなるため、通常は分泌を抑える治療が行われます。ところが、米国での臨床試験で逆に大量にテストステロンを投与した進行性前立腺がんの患者の腫瘍が小さくなったという報告がありました。47名の患者が参加し、腫瘍マーカーの数値は大半が下がり、そのうちの1名に関しては寛解した可能性もあるそうです。彼らは皆、進行性の前立腺がんの患者で、最新のホルモン剤であるアビラテロンやエルザルタミドに耐性が出ていました。
がん細胞のDNAを損傷したのではないか
臨床試験を指導した米国のジョンホプキンス大学医学部のサム・デンミード教授によると、血中のテストステロンの濃度が急激に上昇し、がん細胞のDNAを損傷させたのではないかとコメントしています。そして、この治療の今後についてはまだ研究段階であり、仕組みや使い方を見つけていかなければならないとしながらも、患者の多くで進行が止まり、1名は完全にがんの兆候が消えていると評価しています。
ホルモン治療が効かなくなった患者への光明
冒頭でも書いたように、進行性の前立腺がんの治療においては、テストステロンを減少させる薬の投与が一般的です。しかし、ほかのがんと同様、がん細胞は常に変異し、やがてこの治療に対して耐性を持つようになります。今回の臨床試験ではそのような患者に対して従来とは全く逆のアプローチで劇的な結果が出たことに意味があります。実用に向けてはまだまだ多くの課題がありますが、今後も研究が続けられていくとのことです。