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2016-10-06

乳がん

乳がんの傾向
近年、乳がんの罹患者数は急激に増加しており、女性の部位別がん罹患者数では1位となっています。2015年の乳がん罹患者数は約8万9000人。増加の背景には女性の社会的進出による高齢出産の増加、食生活の欧米化による肥満などがあります。罹患者数に伴って死亡者数も増加傾向にあり、2015年の死亡者数は約1万4000人です。但し、部位別死亡者数は5位となっており、乳がんは比較的生存率が高いがんといえます。また、男性にも乳腺は存在することから、稀にではありますが男性が乳がんに罹患することがあります。

※参考 公益財団法人がん研究振興財団「がんの統計’15」

乳がんの種類
乳房に出来るがんは部位別には2種類に分けられます。母乳を乳頭まで運ぶ部位に出来る「乳管がん」と、乳管の奥にある母乳を作る組織に出来る「小葉がん」で、乳管がんのほうが多く見られます。また、進行度からは「浸潤がん」と「非浸潤がん」に分けられます。乳管や小葉など発生した場所に留まらず、外へと浸潤を始めているのが「浸潤がん」で、リンパ節や骨、肝臓などに転移する可能性があります。しこりを感じる場合は、大半が浸潤がんといわれています。がん細胞が発生した場所に留まっているのが「非浸潤がん」で、マンモグラフィー検診などで発見される場合が多く、転移のリスクは少ないといえます。

乳がんの原因
乳がんは30代後半から増え始め、40代後半がピークとなります。発症には女性ホルモン(エストロゲン)が関係しており、女性ホルモンの分泌期間が長ければ、それだけ発症リスクが増えることになります。そのため、初潮が早い、閉経が遅い、出産経験が少ない、初産が30代以上などの女性が乳がんに罹患しやすい傾向があるといえます。そして、最近では50代以降の罹患者も増加しています。本来は閉経すると女性ホルモンの分泌が減少するため、乳がんのリスクも減るはずです。しかし、食事の欧米化によって乳製品や高カロリー食品を摂取することによって肥満体質になり、皮下脂肪に存在するアロマターゼという酵素によって、エストロゲンが生産されるためです。

乳がんのステージ分類
乳がんのステージは他の多くのがんと同じように、T因子、N因子、M因子を基準として次のように分類されます。

T因子(原発腫瘍)
T0 しこりが見えない
T1 しこりの大きさが2cm以下
T2  しこりの大きさが2.1~5cm
T3  しこりの大きさが5cm以上
T4 しこりの大きさによらず胸壁、あるいは皮膚に浸潤

N因子(所属リンパ節)
N0  転移なし
N1  脇の下のリンパ節に転移あり
N2  脇の下、あるいは胸骨の内側のリンパ節に転移あり
N3  脇の下、あるいは胸骨の内側のリンパ節、あるいは鎖骨の上下のリンパ節に転移あり

M因子(遠隔転移)
M0 遠隔転移を認めない
M1  遠隔転移を認める

M0 M1
N0 N1 N2 N3 anyN
T0 0期 ⅡA期 ⅢA期 ⅢC期 Ⅳ期
T1 Ⅰ期 ⅡA期 ⅢA期 ⅢC期
T2 ⅡA期 ⅡB期 ⅢA期 ⅢC期
T3 ⅡB期 ⅢA期 ⅢA期 ⅢC期
T4 ⅢB期 ⅢB期 ⅢB期 ⅢC期


※参考 乳がん取扱い規約(第16版)

 

乳がんの生存率
乳がんは進行スピードがそれほど速くないため、他のがんに比べると生存率が高い傾向にあります。ステージI、Ⅱでは5年生存率が90%以上なので、早期に発見し、治療を開始すれば、治癒率とともに乳房を温存出来る可能性も高くなります。但し、乳がんの場合、腫瘍が比較的小さい時期からリンパ節や他の臓器へ転移をするケースが多いため、転移の有無が予後に大きく関わります。

乳がんの5年生存率(女性)

I期 99.90%
II期 95.20%
III期 79.50%
IV期 32.60%

※全がん協部位別臨床病期別5年相対生存率(2004-2007年診断症例)より


乳がんの治療法
乳がんの治療には手術、放射線、化学療法、ホルモン治療などがありますが、乳がん治療の基本は手術で、ほかの治療は補助的な治療となります。手術に幾つかの治療を組み合わせて行うことが一般的です。

手術
ステージⅠ~Ⅲ期は手術を中心とした治療方針が立てられます。乳がんの手術には乳房全体を摘出する「乳房切除術」と、しこりとその周囲の乳腺を部分的にくりぬく「乳房温存術」があります。近年ではリンパ節への転移がない場合は、乳房を切除しても温存しても再発や生存率に差がないことがわかってきたため、乳がん手術の主流は「乳房温存術」となっています。その場合、手術の前に化学療法を行い、がんが小さくなってから、乳房温存術を行うこともあります。2013年6月にはシリコンインプラントの保険適用が認められたため、切除した乳房を再建することも以前より容易になりました。

放射線
放射線治療の多くは乳房温存手術との組み合わせで行われます。手術で取りきれなかったがん細胞を死滅させるためです。また、乳房を切除した後に、再発予防のために広範囲のリンパ節に照射したり、骨の痛みなど転移した病巣による症状を緩和したりするために行います。

抗がん剤
乳がんは他の部位のがんと比べて抗がん剤の効果が出やすいといわれています。1種類だけで治療することはほとんどなく、複数の薬を同時、または順番に使って治療するのが一般的です。多くは注射で投与しますが、経口で投与する薬もあります。しかし、がん細胞以外の正常な細胞にも影響を与えるため、様々な副作用が表れる傾向があります。近年ではがん細胞にある特徴的な物質を目印に狙い撃ちする分子標的薬が開発され、転移や再発に対する治療の選択肢が広がっています。

ホルモン剤
女性ホルモンであるエストロゲンの刺激によって増殖する乳がんを「ホルモン受容体陽性乳がん」「ホルモン感受性乳がん」「ホルモン依存性乳がん」といいます。乳がんの約7割以上がこのタイプで、ホルモン療法の対象になります。治療はホルモン療法を単独で行う場合と、ホルモン療法に抗がん薬や分子標的薬を併用する場合があります。また、治療にどの薬を選択するかは、閉経前か閉経後によっても変わります。

 

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