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2016-07-26

肝がん

肝がんの傾向
2015年における我が国の肝がん罹患者数は4万7000余り。肝がんによる死亡者数は3万弱と推計されています。男女別で見ると、肝がんは男性にやや多い傾向があります。男性の死亡者は約1万8900人で全がんの4番目(約9%)、女性の死亡者は約1万人で全がんの6番目(約7%)です(公益財団法人がん研究振興財団「がんの統計 ’15」より)。肝がんは1970年代以降に急増し、2000年代には死亡者数で肺がん、胃がんに次ぐワースト3だったことがあります。最近になってほぼ横ばいから減少傾向に転じているのは、肝がんと関連性の強い肝炎ウイルス感染率が低下し、ウイルス性肝炎が減少しているためだと考えられます。

肝がんの種類
肝臓に出来るがんは「原発性肝がん」と「転移性肝がん」に大別されます。原発性肝がんとははじめから肝臓に出来るがんを指し、転移性肝がんは他の臓器に出来たがんが転移したものです。肝臓に転移しやすいのは、肺がん、乳がん、大腸がん、膵がん、胃がんなどです。原発性肝がんには主に「肝細胞がん」と「肝内胆管がん」があります。肝細胞がんは肝臓の細胞ががん化したもの、肝内胆管がんは肝臓内にある胆管(消化液の一種である胆汁が通る管)の一部に出来るがんで、胆管細胞がんとも呼ばれます。一般に肝がんという場合は、ほぼ肝細胞がんを意味するので、ここでも肝細胞がんについて解説します。

肝がんの原因
肝がんの大きな特徴は慢性肝炎と深く関係していることです。B型・C型肝炎ウイルスの感染により生じる慢性肝炎が、その後、肝硬変や肝がんに進展する場合が多いのです。慢性肝炎の原因としてウイルス感染の次に多いのはアルコールの多飲です。我が国ではC型肝炎やそこから進展した肝硬変に起因する肝がんが約70%、B型肝炎から生じる肝がんが10~20%、アルコール性肝炎を原因とする肝がんは約10%と推計されています(一般社団法人日本肝臓学会「肝がん白書 平成27年度」より)。ただ、近年は衛生状態が改善して、肝炎ウイルスの感染が減った一方で、肥満者に多い脂肪肝などから肝がんに進展するケースが増えていることが指摘されています。

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肝がんのステージ分類
肝がんのステージ(病期)、腫瘍の数、大きさ、浸潤(広がり)の度合いを基準に、リンパ節、または他の臓器への転移があるかどうかを加味して分類されます。基準となるのは下の要件です。リンパ節転移か他臓器転移があるとそれだけでIV期と診断されます。

 分類基準
a ……腫瘍の数が1個のみ
b ……腫瘍の直径が2cm以下
c ……脈管(血管・胆管)への浸潤がない

  a、b、cが全て当てはまる a、b、cのうちふたつが当てはまる a、b、cのうちひとつが当てはまる a、b、cのどれも当てはまらない
リンパ節・他臓器への転移がない
Ⅰ期 Ⅱ期 Ⅲ期 Ⅳ期
リンパ節への転移がある
ⅣA期
他臓器への転移がある ⅣB期


肝障害度分類
肝がんではステージ分類に加え肝臓がどの程度障害されているか(肝障害度)も診断の尺度とされます。肝臓は再生能力が高いため、肝機能が良好なら、手術で大きく切除しても大丈夫です。しかし、肝機能が低下していると、手術は無理な場合があります。その評価に用いられるのが、「肝障害度分類」や「チャイルド・ピュー分類」です。肝障害度分類は3段階で評価され、下の表で2項目以上当てはまる段階のより高いほうに分類されます。一般に肝障害度Bまでが手術適応、肝障害度Cは手術不適と評価されます。

 

  A B C
腹水 なし 治療効果あり 治療効果が低い
血中ビリルビン(mg/dL) 2.0未満
2.0~3.0 3.0超
血中アルブミン(g/dL) 3.5超
3.0~3.5
3.0未満
ICG-R15(%) 15未満
15~40 40超
プロトロンビン活性(%) 80超
50~80
50未満


肝がんの生存率

がんには出来た部位などによって予後(回復の見通し)の傾向がよい種類と悪い種類があります。例えば、男性の前立腺がん、女性の乳がんはともにわが国で性別罹患者数トップですが、その割に死亡率は低く、予後良好な傾向があるといえます。そのようながんと比べると、肝がんの予後はあまりよくない部類に入ります。肝がんの予後がよくない理由としては、発見が遅く手術出来ないケースが多いことや、手術出来ても全摘は無理なので再発しやすいことなどが挙げられます。しかし、肝臓内での再発なら概ね手術などの局所療法で繰り返し治療することも可能です。以下が肝がんの大まかな5年生存率です。ステージが同じでも、患者ごとに病態や経過が大きく異なりますから、あくまでもひとつの参考と考えてください。

肝がんの5年生存率

Ⅰ期 57.30%
Ⅱ期 38.70%
Ⅲ期 15.50%
Ⅳ期 4.00%

全がん協部位別臨床病期別5年相対生存率(2004-2007年診断症例)より

肝がんの治療法と予後
肝がんの標準治療では肝障害度を踏まえ腫瘍の数、大きさなどによって治療方法が検討されます。我が国では概ね次のような選択がスタンダードになっています。

 

肝障害度 AまたはB C
腫瘍の数 1個 2~3個 4個以上 1~3個 4個以上
腫瘍の大きさ 直径3cm以下 直径3cm超 直径3cm以下
治療法

①手術
②ラジオ波焼灼

①手術
②ラジオ波焼灼
①手術
②肝動脈塞栓術
①肝動脈塞栓術
②動注化学療法または分子標的薬
生体肝移植 緩和ケア


治療法(「肝がん白書 平成27年度」より改変)

手術
通常、肝がんで手術の適応となるのは、肝障害度がAまたはBで、腫瘍が3個以内の場合です。但し、手術が成功しても、その後の再発率は高いのが、肝がんの特徴です。特にC型肝炎から進展した症例では、術後3年の再発率が70%以上となっています。分子標的薬やインターフェロン投与などの補助療法によって再発を抑えることが課題です。我が国の大規模な追跡調査では肝がんを手術で切除した場合の5年生存率は、54.2%と報告されています(日本肝癌研究会第19回全国原発性肝癌追跡調査報告2006~2007年より)。

ラジオ波焼灼術
ラジオ派焼灼術とは体の外から肝臓に特殊な針を刺し、ラジオ波(電磁波の一種)を流して、熱でがんを死滅させる治療法です。超音波やCTでがんの位置を正確に測りながら行います。この治療は、肝障害度がAまたはBで、腫瘍が3個以内、大きさが直径3cm以下の場合に適応となります。治療成績や5年生存率は手術とほぼ同等です。腹部に針を刺して行う肝がんの経皮的治療には、より古くからエタノール注入法(エタノールでがんを凝固し死滅させる)がありましたが、近年ではラジオ派焼灼のほうが主流になっています。

肝動脈塞栓術
肝動脈塞栓術はラジオ波焼灼術の適応とならない腫瘍数の多い肝がんや大きな肝がんに、しばしば実施される治療法です。腿のつけ根から肝動脈までカテーテルを挿入し、抗がん剤を含ませたゼラチンスポンジや薬剤溶出ビーズで、血管をふさぎます。腫瘍に血液を供給している肝動脈をふさぎ、がん細胞を栄養不足に陥らせて死滅させるのが狙いです。単独で肝がんを根治することは難しく、ほかの局所療法や抗がん剤と併用されます。

動注化学療法または分子標的薬
通常の抗がん剤治療は点滴や内服によって薬を体中に行き渡らせます。しかし、肝がんにはこの方法が効きにくく、動注化学療法が行われてきました。腿のつけ根から入れたカテーテルを、肝動脈に留置し、肝臓に直接抗がん剤を注入する方法です。抗がん剤による全身療法は通常、転移性肝がんでのみ実施されていました。しかし、現在では新しいタイプの抗がん剤として分子標的薬が普及し、肝がんでも全身療法薬として広く使われています。2009年に原発性進行肝がんで保険適用となった分子標的薬がソラフェニブ(商品名ネクサバール®)です。

生体肝移植
生体肝移植は健康な他者の肝臓の一部を患者の肝臓全体に取り換える手術です。奏効すれば肝がんの根治療法となり、5年生存率は80%台です。但し、臓器移植の成否はドナー(臓器提供者)との細胞型の適合率に左右されます。細胞上のHLAという分子の型が合わない臓器を移植すると、免疫に拒絶されてしまうからです。適合率が最も高いのは、同じ親の遺伝子を受け継いだ兄弟間です。肝がんの治療は時に難しい選択を迫られことになります。治療のためでも肝臓の機能を失うことは、命に関わるからです。保険適用になる治療を総動員しても、高い確率で治るとはいえないのが、肝がん標準治療の現状です。治癒率を向上させるには、自由診療で実施されている免疫細胞療法のような先端治療も、併用を検討すべきではないかと思われます。

 

 

 

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