がん細胞はいろいろな手段で免疫から身を守っています。光を利用してそれを打ち破る方法が、米国の医学雑誌で発表されました。
がん細胞は免疫の働きに抵抗する
免疫は私たちの体に備わった監視システムであり防御システムでもあります。体内の異物を即座に発見し排除してくれますが、様々な細胞がそれぞれの役割を受け持っています。がんが免疫が正常に働かなくなった結果であることは、既に周知されてきましたが、がん患者の体内では免疫抑制が働いています。がん細胞は免疫細胞から姿を隠したり惑わせたり、時には反撃をしたりもします。
制御性T細胞は免疫のブレーキ役
免疫細胞のひとつに制御性T細胞があります。この細胞は多くの免疫細胞とは反対の働きをします。免疫が過剰に働くと、正常な細胞まで攻撃する自己免疫疾患を引き起こしますが、制御性T細胞は免疫にブレーキをかけるように働くのです。そして、がん細胞は自分の周囲にこの制御性T細胞を集めて、免疫細胞の攻撃を防ぐこともわかっています。
免疫を抑制する制御性T細胞を光で破壊
この度、米国の医学情報誌『サイエンス・トランスレーショナル・メディシン』に掲載された論文によると、米国立衛生研究所の小林久隆主任研究員らがこの免疫抑制を解除して、がん細胞を攻撃する方法を開発し、動物実験で効果を確認したそうです。光に反応する物質と、制御性T細胞に反応する抗体を結合させ、がん細胞を移植したマウスに注射した後に、患部に近赤外線を当てたところ、化学物質が発熱して、結合している制御性T細胞を死滅させたのです。これによって免疫細胞ががん細胞を攻撃する障壁がなくなり、腫瘍は大幅に縮小したとのことです。
免疫に手を加えるのは大変
免疫は自然が人類に与えた仕組みです。生活習慣や環境の悪化でそれを狂わせた結果、がんという病気になり、それを正常な状態に回復させることが、がん治療の鍵であることは、既に常識となりつつあります。とはいえ、そこに人為的に手を加える際には、相当な匙加減が求められます。画期的な薬のように持て囃される免疫チェックポイント阻害剤でさえ、3割ほどの確率で自己免疫疾患等の副作用があります。この研究もすぐに実用化といういうわけにはいかないでしょうが、免疫という観点からがんの制圧は日々進んでいるということです。
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