都知事選でがんサバイバーの鳥越俊太郎氏の健康問題が話題になりました。「病み上がり」といわれた出馬を通して、がん患者と周囲の社会のよりよいあり方を考えてみたいと思います。
「病み上がり」は患者差別なのか
投票日が迫った東京都知事選挙。各候補の舌戦が白熱していますが、公開討論の席上、鳥越俊太郎氏が小池百合子氏を攻撃したのが、「病み上がり」といわれたことについてでした。鳥越氏は「がん検診100%」を訴えているように、がんから生還した立場を明確にしていますが、都知事候補への「病み上がり」という批判はがん患者やサバイバーへの差別ではないかと噛みついたのです。
手術から7年なら予後は良好
鳥越氏が最初に直腸がんの手術をしたのが2005年、以後、2007年には肺、2009年には肝臓に転移したため、複数回の手術を受けています。よく5年生存率が予後の参考にされますが、最後の手術から7年を経ているのであれば、まずは良好と考えてよいのではないでしょうか。直腸がんが見つかった時にはステージ4、即ち末期だったと明かしていますが、奇跡的な回復だといえます。健康を回復しているなら、鳥越氏の立候補はがん患者やサバイバーを勇気づけることでしょう。
都知事という要職に健康は欠かせない
しかし、がんという既往症を抜きに考えても、鳥越氏は76歳の高齢。同じ年の生まれの著名人には同様にがんを克服した王貞治氏がいますが、各界を見ても、現役の第一線という方は少なくなりつつあります。東京五輪を控え、ますます多忙になる都知事という仕事をこなす上で、その健康面が懸念されるのは致し方ないことでしょう。
がんを隠している方は多い
2005年、鳥越氏が最初にがんとわかった際の報道などを見返してみると、先日告白したようにステージ4という具体的な記述は見つかりませんでした。ステージ4となると周囲への転移や浸潤はもちろん、離れた部位への転移も考えられます。生きること、がんと闘うことを選択したなら、仕事など放っておいてでも、様々な対処が必要な段階です。人前に出る仕事であれば、がんという大病はあまりポジティブな要素ではないので、弱みを見せたくないと考えがちです。その時点でステージ4とわかっていたなら、あえて正確な病状を公開しなかったことは考えられます。実はこのことは一般の方でも同様であり、がんになったことを職場などに隠したままで、治療を続けている方は少なくないのです。
周囲とともにがんと闘う
がんとの闘いは総力戦です。人間、まずは健康あって命あっての存在。周囲に知らせることなく、孤独な治療を続けるよりは、素直に周囲に協力を求めてはどうでしょうか。自らのがんとしっかり向き合い、周囲にも差し支えない情報は開示して、出来ることと出来ないことをはっきりさせるのです。また、日本人の2人に1人ががんになる時代、職場が治療しながら働くことに理解を示し、協力出来る体制を作ることが求められます。そして、がんになることは人生の終わりではありません。がんと闘う日々も人生そのものであり、がんを乗り越えれば、その後にも人生は続いていくのです。
精密検査の結果を開示しては
鳥越氏は、今が一番健康というなら、いっそのこと、精密検査の結果を開示し、主治医立ち合いの元での選挙演説でもやってみてはどうかと思います。がん患者、そしてサバイバーという立場でその社会での居場所を切り開いていくのは、都知事選を抜きにしても大きな意義のある仕事だと思います。病み上がりが問題なのではありません。健康かどうかが問題なのです。また、仮に病気を抱えていてもどう生きていくかが、これからのがん患者と周囲に求められるテーマではないでしょうか。