がんゲノム医療を広げる取り組み
現状では多くの患者さんががんゲノム医療を利用出来ているとはいえません。
がんの原因からアプローチ
がんゲノム医療が推進される中、2019年にがん遺伝子パネル検査が保険適用になりました。がんは遺伝子の変異が原因で異常な細胞が発生し、それがどんどん増えていった結果です。がんを対象として叩く標準治療では、なかなかがんで亡くなる方が減らない中、がんをその原因から治療しようという取り組みです。
近年、がんの新薬は、がん細胞がその遺伝子の変異んによって特異的に発現する分子を目印に作用する分子標的薬が主流になっています。がん細胞に どんな遺伝子の変異があるかがわかれば、がんの性質がわかり、それに応じた分子標的薬が選択出来るわけです。従来、標準治療は部位や進行の度合いに応じてガイドラインが定められてきました。しかし、同じ部位のがんであっても、遺伝子の変異は異なります。
治療に行き着いた患者は少ない
期待されたがんゲノム医療ですが多くの患者が利用出来ているとはいえないのが現状です。2019年6月~10月の間に保険診療でがん遺伝子パネル検査を受けられた患者は、厚生労働所の調べでは805人。年間にがんに罹患する方が、100万人を超える中では、あまりに少ない数です。
現状では標準治療を終えた(標準治療の効果がなくなった)患者や標準治療が確立されていない希少がんの患者が対象である以上、致し方ないのかもしれません。また、がん遺伝子パネル検査の結果が治療に結び付いたのは88人。その背景には治療が見つかっても、それが保険適用とは限らず、費用の面で断念せざるをえないということもあるでしょう。
先進医療や治験を利用
そんな中、多くの医療機関ががんゲノム医療を広げていく取り組みを行っています。国立がんセンター中央病院など11病院では患者申出療養と治験という形を使い、40万円の研究費を支払えば、製薬会社から提供されたグリペッグなど10種類以上の分子標的薬を無償で使用出来るようにしています。
また、がん研究センター中央病院では標準治療の早い段階でがん遺伝子パネル検査を行い、その後の治療選択に役立てる治験をはじめました。慶應義塾大学病院では2018年の暮れから手術を受けたがん患者全員に、無料でがん遺伝子パネル検査を行い、データの蓄積を行っています。