抗がん剤の休眠療法の是非
微量の抗がん剤を使うことで、がんが現状維持出来ればよしとする治療があります。
副作用で抗がん剤を十分に使えないことがある
抗がん剤は、がん細胞が正常細胞よりも頻繁に分裂する性質を利用し、分裂中の細胞のDNAを傷害することで、その数を減らします。がん細胞を直接叩くことが出来る反面、分裂中であれば正常な細胞であってもダメージを与えるため、吐き気や脱毛、下痢などの副作用があります。抗がん剤には十分な効果を得るための既定の分量が定められていますが、患者によっては副作用がつらく、規定の分量を使用出来ないことがあります。
がんが大きくならなければよい
抗がん剤による治療は、がんを縮小し消失させるのが、最終的な目標です。しかし、先に述べた副作用を考慮し、少しの量の抗がん剤を使うことで、がんが小さくなったり消えたりしなくても、現状の大きさを維持する、即ち休眠することを狙ったのが休眠療法です。抗がん剤は、患者が高齢であったり、副作用が重かったりする場合、医師の判断で量を調整することがあります。休眠療法ではそうした調整よりもずっと少ない量を使います。
標準治療を終えた患者に何が出来るか
この休眠療法については様々な議論がありました。ガイドラインでは既にやれることがなくなった患者の延命が出来たという報告もありますし、抗がん剤を効果が十分期待出来ないような量を使うのは、戦力の逐次投入であり、患者を疲弊させるだけだという意見もあります。現在では抗がん剤の副作用に関しては、様々な緩和の手段が生み出され、抗がん剤による治療はかなり楽になっています。
また、がんの新薬は、がん細胞に特異的に発現する抗原を目印に、効率よく作用する分子標的薬が主流になり、副作用は従来の抗がん剤よりも随分軽くなりました。従って、休眠療法も徐々に行われなくなるとは思いますが、重要なのは、これが標準治療のガイドラインではやれることがなくなった患者に対して、何とか策はないかと行われたことです。標準治療が出来なくなった患者は、緩和ケアしか選択肢がありません。しかし、どこまでも完治を目指したいなら、その道をつけるのが、医療の使命ではないでしょうか。