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2018-07-10

これからのがん治療のキーワード1 免疫

進行がんの完治を目指すための情報提供を目的に開設したがんサイダー.infoは、明日で2周年を迎えることになります。今日と明日は2周年の節目にこれからのがん治療を語る上で欠かせないふたつのキーワード「免疫」「遺伝子」について解説していきます。

「夢の新薬」のブームは徐々に下火に
2年前、がん治療の大きな話題といえば免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」でした。抗がん剤が効かなくなった患者に対しても効果が期待出来るため、国内の製薬会社が開発したという背景もあって、多くのメディアが話題にしました。中には「夢の新薬」などと持て囃したところもあります。とはいえ、オプジーボは全ての患者に有効とはいえません。また、自己免疫疾患という重篤な副作用の可能性、当初は年間3500万円もの薬価が批判の対象となり、オプジーボの話題は徐々に下火になっていきました。

オプジーボの登場で免疫の重要性が周知されるように
とはいえ、オプジーボの登場によって多くの方が、免疫ががん治療にとって不可欠であることを認識されたのではないでしょうか。従来の抗がん剤ががん細胞を対象として殺傷するとすれば、オプジーボは免疫をサポートすることで、患者自身の力でがんを退治します。免疫は日々、体内を監視し、がん細胞が出来ると即座に排除しており、これががんの芽を未然に摘んでいるのですが、がん患者の体内ではこの免疫が機能しづらくなっているのです。

従来の抗がん剤と異なるオプジーボの作用機序
その一例ががん細胞による免疫抑制です。免疫細胞の一種・T細胞には様々な免疫チェックポイントがあり、がん細胞がそこに働きかけると機能しなくなります。例えばPD-1という免疫チェックポイントにがん細胞が発現するPD-L1が結合すると、T細胞は機能できなくなるのです。そして、オプジーボは先にPD-1と結合することで、PD-L1が結合出来ないようにします。そうするとT細胞はがん細胞を攻撃出来るようになるわけです。

がん免疫の主役ではないT細胞の限界
しかし、T細胞の一部に対して免疫抑制が解除されたからといって、がんに対する免疫は十分だとはいえません。そもそもT細胞はがん免疫の主役とはいえないからです。T細胞には幾つものタイプがあり、攻撃対象として認識したがん細胞しか攻撃しません。そして、その確率は何万分の1というレベルなのです。がん免疫の主役は、活性が高ければ、がん細胞を見逃すことなく迅速に排除するNK細胞です。どれだけT細胞に働きかけても限界があります。

がん治療の主流は免疫重視の分子標的薬に
標準治療、特に抗がん剤の重篤な副作用など、治療としての限界が周知されるようになり、「免疫」という言葉が持て囃されている感はあります。しかしながら、欧米ではがん細胞に特異的な物質を目印に働き、分裂・増殖にストップをかける分子標的薬が、抗がん剤よりも主流になっています。がんが大きくなるのは、薬で食い止め、後は免疫がいかにがんを排除するかになりますが、分子標的薬の多くはADCC活性といって免疫細胞の働きを刺激するものが多いのです。国内では欧米ほど分子標的薬は承認されていませんが、がん治療において免疫はもう何年も前から重要なポイントになっていたのです。

直接、免疫で治すわけではないのに「光免疫療法」
ここ最近のもうひとつの話題が光免疫療法です。光に反応して発熱する色素を、がん細胞に集中しやすい抗体に結合させて投与した後に、光を当てることで、熱によってがん細胞を破壊します。がんを効果的に攻撃出来るということで話題になりましたが、抗体は使っているものの、免疫でがんを治すわけではありません。確かにこれによってがん細胞が破壊されれば、体内の免疫細胞に刺激を与えることにはなりますが、それは二次的な話です。要するにこの治療も「免疫」という言葉に踊らされている感が拭えません。

がん免疫はNK細胞あっての話
がん治療にとって免疫を万全に機能させることは不可欠です。特に進行がんとなると対象として攻撃する三大療法では限界がはっきりしているのですから、それしか手段はないといっても過言ではありません。しかし、それは主役であるNK細胞あっての話であり、このところの免疫に関わる治療の話題はいささか筋道を外れているのではないでしょうか。

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