がんゲノム医療をわかりやすく解説1　がんゲノム医療で何が出来る?

国が推進するがんゲノム医療。これによってがん治療はどのように変わっていくのでしょうか。第1回目は何が可能になるかを解説します。

生命の情報「ゲノム」が完全に解読
私たちの体は膨大な数の細胞の集まりです。細胞の核の中には二重らせん状のDNAがあり、そのDNAに記された生命に関する情報がゲノムです。人類の英知はこの解読に挑み、1990年から国際プロジェクト「ヒトゲノム計画」がはじまります。そして、コンピュータの進歩などを背景に、2003年には完全な解読結果が公開されました。DNA上にはどんな遺伝子があり、それぞれの遺伝子がどの蛋白質を合成する設計図であるかが明らかになったのです。

国はがん対策としてゲノム医療を推進
ゲノムの解読は医療への活用が期待されており、遺伝性の様々な病気の治療に役立てられることになりました。中でも細胞がコピーされる際のエラーが原因で起こるがんについては、ゲノムの活用で大きな変革が起こると期待されています。がんは1981年以来、日本人の死亡原因のトップであり、がんになる方は毎年100万人以上。その数字は年々増え続けています。この健康と長寿に対する最大の脅威に対して国はがんゲノム医療を推進しようとしているのです。どんながんなのか、遺伝子の変異でわかる
がんゲノム医療について具体的に説明していきましょう。がんに関連する遺伝子は約500ありますが、どの遺伝子がどのような変異を起こしているかによって、がんの性質は異なります。手術で採取したサンプルや血液からこれを把握します。 がん化しかけた細胞は通常、アポトーシス（細胞死）を起こして崩壊します。また、がん細胞と闘うマクロファージ（免疫細胞の一種）は、敵の死骸を貪食して、その情報を取り込んでいます。体内のどこかにがん細胞がある場合、異常を起こした遺伝子の情報が、血液中に溶け込んでくるので、それらを情報源とするわけです。

個々のがん患者に応じた治療が実現
では、どんなことが可能になるのでしょうか。厚生労働省が公開している資料で挙げられているゲノム医療の意義が4つあります。第一は「疾患の診断」で、より精密な診断を可能にします。個々の患者さんのがんの性質や特徴がわかり、最適な治療法が選択出来るようになります。次に「治療薬の使い分け」にも役立ちます。従来から使われている抗がん剤などを、がんのタイプに合わせて選ぶことで、薬の副作用を最小に抑えつつ、効果を最大化することが期待出来ます。また、「個別化医療」は分子標的薬などを使った新しいタイプの化学療法を意味します。分子標的薬はそれぞれ特定の遺伝子変異を標的にしているので、遺伝の変異を知ることで、どの薬が適しているかがわかります。そして、4つ目が遺伝子治療。将来はがんの原因となる遺伝子を外から補うことで、がん細胞をアポトーシスに誘導するような遺伝子治療が行われるようになるでしょう。