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2017-05-10

「画期的ながん治療」が「画期的」かどうかの判断基準

 

メディアは少しでも話題になりそうだと、「画期的ながん治療」と煽りますが、殆どの場合は内容が伴っていなかったり現実的でなかったりします。では、「画期的ながん治療」かどうかを端的に判断する基準はあるのでしょうか。

誰もが新たな治療の登場を期待
最近では光免疫療法が注目されましたが、日本人のがんの罹患率が上がっていることを背景に、画期的ながん治療の話題は後を絶ちません。光免疫療法はまだ実験の段階ですが、昨年からがん治療の話題を独占したのは、「夢の新薬」オプジーボでした。医療は日々進歩しているとはいえ、我が国のがん治療の主流である標準治療は、進行がんに対しては延命しか望めません。誰もが新たな治療の登場に期待するのは当然のことでしょう。

 

日本発であることが話題性を後押し
しかしながら、メディアが大きく取り上げて、患者を期待させるほどには、実状が伴っていない治療が多いように思われます。前出のオプジーボも比較的よく効くとされる腎細胞がんで2割程度の患者にしか効きません。従来の抗がん剤のようにがん細胞を直接殺すのではなく、免疫の力を回復させるという作用機序であったり、これまで新薬の開発においては欧米に立ち遅れていた我が国発の製品であったりすることが、話題性を後押ししたところはあるでしょう。光免疫療法も米国で開発されていますが、中心となった研究者は日本人です。

がん細胞だけを狙い撃ちに出来るなら「画期的」
研究段階の治療と既に保険適応の治療を同じ俎上で論じるのは乱暴かもしれませんが、がん治療において本当に画期的かどうかのポイントは、がん細胞だけを叩けるかどうかになります。手術や放射線では見える範囲の腫瘍にしか対処出来ません。再発や転移に備えて、細胞の単位でがんに対処するには、周囲の正常な部分まで切除したり照射したりするしかないのです。従来の抗がん剤はがん細胞だけを殺すことは出来ません。がん細胞が分裂が頻繁であることに着目し、分裂中の細胞を殺しますから、分裂中の正常細胞にも影響は及び、それが副作用を招き、患者を消耗させます。

 

欧米では既に分子標的薬が主流
我が国の化学療法ではいまだに抗がん剤の使用が一般的ですが、欧米では分子標的薬が主流になりました。がん細胞に特異的に発現している蛋白質などの抗原を標的として作用する薬です。無差別に細胞を殺傷するわけではないので、従来の抗がん剤に比べれば、腫瘍を縮小させる効果は穏やかですが、副作用も軽微といえます。また、ADCC活性を高める(免疫の力を増幅する)性質の薬が多く、がん細胞が新たに増殖しているのを食い止めているうちに、免疫によってがんを退治します。

がん細胞の抗原は正常細胞にも存在する
ところが、分子標的薬とてがん細胞を完全に狙い撃ち出来るわけではありません。標的となる抗原はがん細胞に特異的に発現する蛋白質などですが、正常細胞にも存在します。がん細胞にのみ存在して、正常細胞には存在しない──そんな万能の抗原はいまだに見つかっていないのです。

光免疫療法もオプジーボも抗原ありき
光免疫療法では近赤外線に反応して発熱する色素を、がん細胞の抗原に対応する抗体に結合させて投与します。そして、がん細胞に色素が取り込まれた後に、近赤外線を照射することで、がん細胞を熱によって破壊します。やはり抗原頼みなのです。オプジーボもT細胞の免疫チェックポイント(作用することでがん細胞を攻撃出来なくなる部分)であるPD-1に結合するPD-L1が発現しているがんにしか効果はありません。

NK細胞はがん細胞だけを殺せる
「画期的ながん治療」が本当に「画期的」かどうか。いささか強引な判断基準かもしれませんが正常細胞には影響を与えず、がん細胞だけを攻撃出来るのか、そのためにがん細胞を識別する手段が確立出来ているのかどうかに行き着きます。最先端の新薬開発、新治療開発は有力な抗原の発見にかかっているといっても差し支えないでしょう。因みにがん細胞だけを問答無用で殺してくれるのは、活性の高いNK細胞です。がん細胞は体内で生まれたという意味では、決して異物ではありません。がん細胞なのか、正常細胞なのかを化学的に区別することが難しいなら、それが可能な「生まれついての殺し屋(Natural Killer)」の力を存分に活用することのほうが、がん克服の近道なのかもしれません。

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