がんの再発や転移のきっかけとなるのは、がん細胞の中でも「がん幹細胞」だとされています。完治を目指すには、このがん幹細胞と分化したがん細胞の双方を叩く必要があることを、慶應義塾大学の研究グループが明らかにしました。
ひとつのがん細胞が再発や転移の原因に
がんは細胞単位の病気です。目に見える腫瘍を、手術で切除したり、放射線で焼いたりしても、がんは細胞の単位で全身に散らばっています。これが、がんが全身の病気ともいわれる理由です。標準治療ではこうしたがん細胞を攻撃するために、抗がん剤などの化学療法を行います。ところが、抗がん剤は、がん細胞が頻繁に分裂する性質を利用し、分裂中の細胞を攻撃するだけなので、がん細胞を特定して殺すわけではありません。そして、撃ち漏らしたたったひとつのがん細胞が再発や転移の原因となってしまいます。
がん幹細胞を排除しても、分化したがん細胞が先祖返り
この再発や転移のはじまりだと考えられているのが「がん幹細胞」です。慶應義塾大学の佐藤俊朗准教授らの研究グループはこのがん幹細胞の分裂や分化の仕組みを明らかにし、標準治療のモデルを開発しています。まずヒトの大腸がん細胞をマウスの生体内で観察し、がん幹細胞は分裂と分化を繰り返し、腫瘍を成長させることを確認しました。次にがん幹細胞だけを攻撃する標的治療を行い、再発や転移予防になるかどうかを検証したのですが、分化したがん細胞がまるで先祖返りするようにがん幹細胞になり、再発や転移の可能性が出てくることがわかったのです。
がん幹細胞、分化したがん細胞それぞれに標的治療
その後、研究グループではがん幹細胞、分化したがん細胞のそれぞれに標的治療を行うことで、劇的な腫瘍の縮小を確認しています。がん幹細胞だけを排除すればよいということではなく、それぞれに応じた処置が有効だということでしょう。現在、がんの新薬開発においてはがん細胞の標的となる抗原の発見が続けられています。がん細胞はそもそも私たちの体内で生まれたものなので、異物としての区別が難しいのです。また、がん細胞自体が遺伝子の変異で生まれたわけですから、それぞれが異なる性格をしており、さらにそれがどんどん変異していきます。現状、全てのがん細胞だけに存在し、正常細胞には存在しない抗原は見つかっていませんが、この治療モデルにおいても抗原が鍵になると思われます。
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