悪液質、多臓器不全で死に至る
がんで死ぬとはどういうことでしょう。末期になるとがんが体を支配しているような状態になります。栄養を独り占めされた患者さんは、消耗して死に至ります。
「がんでは死なない」
「がんでは死なない」という言葉を聞くことがあります。どういう意味でしょうか。がんそのものが直接、患者を殺すわけではなく、がんの末期に訪れる全身の衰弱や臓器の機能障害が、直接の死をもたらすという意味です。全身の衰弱を「悪液質」といい、複数の臓器が一度に機能障害を起こすことを「多臓器不全」といいます。
全身が衰弱する「悪液質」
がんは正常な組織内に広がり、その組織の働きを邪魔することもありますが、がん細胞が正常細胞を攻撃しているわけではありません。命に関わる臓器を冒した場合を除いて、がんが命に関わるのは、増殖したがんに栄養を奪われることで、正常な組織が栄養不足に陥ってしまうからです。悪液質はがんに限らず慢性の病気によって起こる全身の衰弱を意味します。そのために患者さんは一様にやせていきます。これが「悪液質」です。
免疫が攪乱され、さらに衰弱
しかし、がんでやせていく理由は栄養不足だけではありません。がんは自分の成長に有利な環境を作るために、体内に慢性の炎症状態を作ります。そのために免疫系を撹乱して、大量に発生させるのが、IL-6(インターロイキン6)に代表される様々な炎症性サイトカインです。炎症性サイトカインは筋肉の蛋白質をがん細胞の栄養とするために分解していきます。炎症によって消耗すると、エネルギーを補うために、脂肪も分解されます。こうして全身の筋肉と脂肪がどんどん使われていくために、衰弱に拍車がかかるのです。
栄養不足に血流障害が加わる
がんに全身を支配されると、全身の臓器が栄養不足に陥ります。そこへさらに炎症性サイトカインによる血流障害が加わります。その結果、最終的には呼吸不全や心不全、多臓器不全(多臓器不全症候群)、あるいは脳出血や肺炎などで亡くなるという帰結をたどるのです。肺水腫(肺胞内に体液がたまる症状)による呼吸不全、不整脈、肝不全、それに伴う肝性脳症などが、多臓器不全として現れる症状です。
悪液質に至る前に治療設計を
悪液質に至った場合、その状態から回復するのは困難です。最近は炎症の数値から悪液質を早めに察知し、末期の治療をより積極的に行うことが提案されていますが、もっと重要なのは早い時点で適切ながん治療を設計して、進行がんを治し、末期に至らないようにすることだといえるでしょう。