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2020-05-27

光免疫療法、抗体薬物複合体などからめ手のがん治療が登場する背景


光免疫療法も抗体薬物複合体も、既存の分子標的薬を利用しています。

がん細胞を効率よく叩く新たな治療
抗体薬物複合体「エンハーツ」が承認され、保険診療で使えるようになりました。これは分子標的薬「トラスツズマブ」に低分子の抗がん剤を結合させたものです。分子標的薬は、がん細胞が特異的に発現する分子を目印に、効率よく作用して、分裂を抑制します。低分子の抗がん剤は、分子標的薬より強い攻撃力がありますが、分裂中であれば正常細胞も巻き添えにしてしまうという欠点があります。両者を結合させることで、欠点を補完し、がん細胞を強力に、かつ効率よく攻撃します。また、国内で治験が進んでいる光免疫r療法は、光(近赤外線)に反応する色素を、あらかじめがん細胞に取り込ませ、後から光を照射して、その際の熱でがん細胞を内側から破壊します。この色素を送り込む際には、免疫(抗原と抗体)の仕組みが用いられ、分子標的薬「アービタックス」と色素を結合させて使用します。

がん抗原探しの限界
このように注目されている治療の特徴として、既存の治療に何らかの手段をプラスしていることが挙げられます。がん治療の最大のテーマは、いかに正常細胞にはダメージを与えず、がん細胞だけを叩くかです。そのため、がん細胞が特異的に発現している分子、即ちがん抗原の発見に多くの研究者が取り組んできました。しかし、がん細胞は私たちの体内で作られる以上、がん細胞にしか存在しない分子を発見することは出来ていません。程度の差はあれど正常細胞にも存在し、がん細胞には特異的に発現する分子が見つかっているに過ぎません。狙いを定めるという方向が限界に達したから、今度は攻撃力を高める方向に進む──それがからめ手のがん治療が登場してくる背景なのかもしれません。

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