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2019-08-29

スペシャルインタビュー 「がん医療と免疫」

長生きするがんサバイバーは主治医にノーといえる人

先端医療から生活指導まで幅広くがん患者をケアしている新横浜かとうクリニック院長の加藤洋一医師。また、がん治療設計の窓口の事務局長として、標準治療を補完出来る理想的な治療の提案を続けてきた中村健二医学博士。今月はそんなおふたりにがん治療と免疫をテーマに対談をしていただきました。

まず心がけてもらいたいのは生活習慣を整えること
中村 加藤先生のがん治療の基本は、免疫をいかに上げていくかだと思いますが、どのような点を指導されていますか?

加藤 がん患者さんの免疫は健常者に比べて低下しています。これに対して患者さん自身の樹状細胞やNK細胞などを採取し、体外で強化して戻す免疫細胞療法などを行っていますが、まず心がけてもらいたいのは生活習慣を整えることです。早寝・早起き、バランスのよい食事を規則正しくとること、適度な運動、ストレスを溜めないこと……。幾ら治療をしてもがんになるべくしてなっているわけですから、状態をいい方向に変えていかなければ、再発や転移のリスクは残ります。

中村 生活習慣で免疫は上がるのですか?

加藤 免疫が通常に機能する体温は36.5℃といわれます。私たちの体は自律神経によって制御されていますが、交感神経と副交感神経が相補的に働いています。このバランス、切り替えによって体温も調整されているのですが、どんな生活を送っているかに、大きく左右されるのです。基本は生活習慣を改善してもらうよう指導していますが、重症の場合、炎症を抑える薬を処方することもあります。

中村 実際に免疫細胞療法などを行われて気づかれたことは?

加藤 最近は若い方のがんが増えていますが、30代、40代とか若い患者さんは体力があるので、治療によって免疫が回復し、効果が出易いように思います。これが高齢になってくると、治療を止めると、悪い方向に向かい易い。減らすことは出来ても止めることは難しいです。

半年、1年とか延命するのではなく、それ以上の結果で喜んでもらいたい
中村 生活指導や在宅医療にも熱心に取り組まれているのは、そのあたりのお考えがあるからでしょうか?

加藤 進行したがんが奇跡的に治る患者さんはいます。でも、そのままにしていたら半年後、1年後に再発して亡くなったというケースは少なくないのです。必要な栄養をとれる食事を出来ているか、筋肉が衰えないよう運動は続けているか――生活まで考えていかないと、なかなか結果は出ません。全ての患者さんを救うのは難しいかもしれませんが、半年、1年とか延命するのではなく、それ以上の結果で喜んでもらいたいですから。

中村 生活習慣、特に食事については近年、健康のために糖質制限をする方が増え、がん治療にも導入している医師がいますが……。

加藤 がん細胞は糖質を主な栄養源にしているので、それを断って兵糧攻めにするという考え方ですね。しかし、がん細胞だって必死で生きていますから、糖質がとれなければ、別のところから栄養をとってくるのではないでしょうか。それよりも糖質が不足して、体温が下がると、免疫が低下することのほうが問題ではないかと思います。両方をバランスよくやれたら理想的なのかもしれませんが、私はいかに体温を上げて、免疫を活発にするかを重視しています。

主治医にノーとはっきりいえる方のほうが長生きされている
中村 セカンドオピニオンを聞きにくる患者さんも多いのでは?

加藤 がんサバイバーを数多く見てきましたが、主治医にノーとはっきりいえる方のほうが長生きされているような気がします。標準治療は手術も放射線も抗がん剤も基本的には体に負担がかかります。目に見えるがんを、全部とれたとしても、免疫は落ちていますから、生き残ったがん細胞にとっては好ましい環境です。標準治療はガイドラインに沿って行われますが、患者さんひとりひとり症状も体力も異なります。何が何でも同じことをやる必要はないんです。手術の後に抗がん剤を投与することになっていても、体力が戻るまで待って欲しいとか、手の痺れとかの副作用がつらいから、抗がん剤は止めたいとか……。今の治療に不安や不満、疑問があれば、セカンドオピニオンを活用して欲しいですね。

中村 「主治医」とは何なのかという話になりますが、標準治療で大きな病院にかかっていると、医師に診察してもらえるのは数分です。不安や疑問を払拭する意味でも、セカンドオピニオンは活用出来ますね。加藤 最終的には緩和ケアを受ける患者さんもいますが、実は緩和医療の現場ではがんがどんな状態かは、あまり見ていません。痛みがあるという患者さんには、単純に痛み止めを出すだけ。例えば膵臓がんの患者さんが痛いというので、モルヒネを出されたのですが、見る限り痛みが出るような大きさではありませんでした。実際には胆嚢炎だったのです。痛みとひと言でいっても、場所や程度、種類がいろいろあります。それを的確に見分けて対処していかないと……。だから、主治医とは別の意味でかかりつけとして発見から治療、そして緩和まで関わっていく必要があると思っています。

かとうよういち(写真左) ●日本大学医学部卒業。日本大学大学院医学研究科修了。医学博士号を取得。東京女子医大外科非常勤講師、白山通りクリニック院長を経て、平成20 年、新横浜加藤クリニック院長になる。医療法人社団神樹会理事長。横浜市港北区港北医療センター理事(平成27 年まで)、横浜市医師会代議員、神奈川県医師会代議員、聖マリアンナ医科大学放射線講師、横浜外科医会副会長。

なかむらけんじ(写真右) ●一般社団法人がん治療設計の窓口事務局長。慶応義塾大学医学部卒業。米国エール大学医学部大学院で公衆衛生学修士号、慶応義塾大学で医学博士号を取得。厚生労働省で障害者施策や医療保険制度に関わる。平成26 年4 月、一般社団法人がん治療設計の窓口の設立に伴い現職。日本統合医療学会、日本未病システム学会、日本ホメオパシー医学会、日本精神分析学会などに所属

■新横浜かとうクリニック
電話 045-478-6180
■一般社団法人 がん治療設計の窓口
電話03-5212-2683

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