がんが遺伝子の異常で起こる病気であることは周知されてきました。国が推進するがんゲノム医療は遺伝子を調べて、効果的な治療を絞り込むのが目的です。一方、がん細胞の遺伝子の異常に直接働きかける治療も研究が進んでいます。
遺伝子の異常がわかれば、がんの性質もわかる
国はがんゲノム医療を推進しています。従来の標準治療は部位別にガイドラインが決まっていましたが、がんが遺伝子の異常で起こる病気であれば、その異常を知ることで、がんの性質を明らかにし、適切な治療を選択しようということです。例えば分子標的薬は、がん細胞が作り出す特有の蛋白質を目印に作用します。遺伝子は蛋白質の設計図であり、異常があれば特有の蛋白質を作り出すからです。遺伝子にどんな異常があるかがわかれば、効果の期待出来る分子標的薬を絞り込めるというわけです。
遺伝子の異常を修復するがん治療も
一方、異常な遺伝子に直接働きかける治療も研究されています。がん以外の病気では海外で既に承認されている遺伝子治療もあります。ウイルスが細胞に感染して、自らのDNAを侵入させる仕組みを利用し、工業的に作った正常な遺伝子を補います。がん細胞は、遺伝子が壊れて、際限なく分裂・増殖したり、或いは異常な遺伝子を修復出来なかったり、異常な細胞をアポトーシス(細胞死)に導けなかったりします。こうした遺伝子を正常なものと入れ替えて、がん細胞の分裂・増殖を抑えたり、がん細胞をアポトーシスに導いたりすることを狙います。
遺伝子治療の3つの課題
遺伝子治療の課題としては、ベクターというウイルスを利用した運び手が、どれだけ効率よくがん細胞に遺伝子を届けられるか、がん細胞に運び込まれた遺伝子がきちんと入れ替わるかなどが挙げられます。また、ベクターは異物ですから、量によってはアレルギーを起こす場合があります。こうした課題の克服がなされれば、遺伝子治療はがんにおいても強力な根本治療となるでしょう。
CAR-Tも遺伝子治療
米国で承認され、国内でも臨床試験がはじまりそうなキムリアなどのCAR-Tも、遺伝子に直接手を加えるという意味では、遺伝子治療の一種といえます。キムリアは、免疫細胞の一種であるT細胞の遺伝子を改変し、CD19という蛋白質を表面に発現しているB細胞への攻撃力を高めています。CAR-Tの場合、体外に患者のT細胞を取り出して、遺伝子を改変し、それを培養してから戻すので、手順は異なります。
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