免疫ががん発症を未然に防ぐ
がん細胞の発生は日常茶飯事です。しかし、免疫力が十分であれば、がん免疫を担う免疫細胞が始末してしまうので、がんの発症は未然に防がれています。
生まれては殺されるがん細胞
私たちの体内では健康な時でも毎日数千個という数のがん細胞が出来ていると考えられています。しかし、がんと診断される段階まで育つことはめったにありません。免疫の働きでがん細胞は通常、成長する前に殺されてしまうからです。健康な体内では至るところをパトロールしている免疫細胞が、がん細胞を正常な細胞と見分けて殺しているのです。
がん細胞退治の主役「NK細胞」
免疫細胞の研究が盛んになった1970年代、健常者の血液の中にはどんながん細胞と一緒にしてもすぐに殺してしまう細胞がいることがわかりました。どの細胞かはわからなかったものの、その細胞は生まれつきの殺し屋「ナチュラルキラー(NK)」と名づけられました。がん免疫の主役「NK細胞」です。その後、ほぼ同時期に世界の3つの研究機関でNK細胞が特定されました。1975年のことです。
がんの芽を摘む免疫監視機構
NK細胞の発見で1950年代に提唱されていた免疫監視機構説の正しさが実証されることになりました。免疫監視機構説とは上記の通り体内では日常的にがん細胞が発生しているが、免疫の働きで駆除されているという考え方です。NK細胞は一部が血液中に染み出してきているだけで、全身の体液中に存在します。これが全身をパトロールして、がんの芽を摘んでいるということで、バーネット博士の免疫監視機構説は裏づけられました。
がん免疫のバロメーター「NK活性」
NK細胞によるがん免疫力の強さを「NK活性」といいます。NK活性の高い方はがんになりにくいこと、若い時には高いNK活性が年齢とともに低下していくこと、笑うとNK活性が高まることなどが、広く知られるようになりました。新しいがん治療薬である分子標的薬にはこのNK活性を高めるタイプ(ADCC抗体医薬品)がたくさんあり注目されています。
がんになってもNK活性を高めるには
がんになってしまってからNK活性を高めることは、至難の業です。というのも、どんどん増殖している勢いの強いがんは、偽の信号を使って、免疫を強く抑制し、NK細胞の活性を下げようとするからです。免疫を活かした治療法として免疫細胞療法があります。これは体内に薬などを投与してもNK活性は上がらないので、採取したNK細胞を体外で刺激し、NK活性を高めた後に、体内に戻すという治療です。本来のがんに対する免疫力を回復し、完治を目指す手段として考えられた治療です。