toggle
2016-07-01

がんは浸潤・転移していく

がんは浸潤・転移していくがんは広範囲に浸潤・転移すると進行がんとされます。では、どういう時に浸潤・転移するのでしょうか。それにはがん細胞が姿や性質を変えることが関わっています。

早期がんと進行がんの違い
早期がんか進行がんかは腫瘍がどこまで広がっているか、どんな範囲に転移が認められるかによって判断されます。臓器によって異なりますが、消化器がんの場合は腫瘍が粘膜内にとどまっていれば早期がん、筋層に達していれば進行がんとされます。肺がんは、転移がごく近いリンパ節にしか認められなければ早期がん、より広範囲に転移していれば進行がんと診断されます。

はじめから浸潤、転移出来るわけではない
腫瘍が性質の異なる周辺組織に広がっていくことを「浸潤」といいます。組織の境目を越えて浸潤したがん細胞は、血管に入り込んで、遠くの組織まで「転移」する可能性が高まります。固形がんの多くは粘膜など上皮組織に出来ます。正常な上皮組織の細胞は基底膜(筋層との境目)を越えて増殖することはありません。そもそも、持ち場を離れてほかの場所で生きる能力を持っていないのです。上皮組織に出来たがん細胞も、はじめはおとなしくその場にとどまっています。それがやがて基底膜を突破して浸潤、転移していくようになるのは、がん化した上皮細胞がさらに変異して、姿や性質を変えるためです。これを「形質転換」といいます。

サイトカインの影響で運動性を獲得
細胞と細胞が連絡に使うサイトカインという物質のうち、HGF-βは上皮細胞の増殖抑制因子です。従って、正常な上皮細胞には増殖のブレーキとして働くのですが、がん細胞には全く異なる作用を及ぼします。別の細胞への形質転換を促すのです。上皮組織の細胞は表面から接着分子を出して、お互いに結びついています。はじめはがん細胞も同様です。しかし、CDH1遺伝子などに変異が加わると、接着分子を発現しなくなり、周囲の細胞から離れやすくなります。つまり、動けるようになるのです。

蛋白質を分解して、隣の組織へ
基底膜を通り抜けて、隣の組織に移動したり、血管を通って移動したりするのは、実は免疫細胞などと同じ性質です。免疫細胞のように運動性を持つ細胞は、その発生の系統から「間葉系細胞」と呼ばれます。間葉系細胞には蛋白質分解酵素であるプロテアーゼの一種を出して、基底膜などを分解し通り抜けていく性質があります。がん細胞が変異のプロセスで上皮細胞から間葉系細胞に姿を変えることを、「上皮間葉移行」といいます。これこそが浸潤、転移の発端です。間葉系細胞に姿を変えたがん細胞は、組織の境目(基底膜など)に至ると、プロテアーゼで壁を溶かし、そこを越えて広がっていくのです。

Share on Facebook0Tweet about this on Twitter0
関連記事