4.がん退治の主役はNK細胞
感染症免疫とがん免疫とは異なり、がん免疫の主役はあくまでNK細胞です。がんを攻撃する細胞として、CTLも知られていますが、識別能力も攻撃力もNK細胞には遠く及びません。
がんと感染症では免疫が異なる
ひと口に免疫といっても、細菌やウイルスなどの感染に対応する免疫とがんの発症を防いでいる免疫では、分担が違います。免疫システムには抗体(蛋白質の一種)などによる液性免疫と免疫細胞(白血球)による細胞性免疫があります
樹状細胞やT細胞は感染症が相手
感染症に対する免疫を担当している免疫細胞は、樹状細胞、マクロファージ、T細胞、B細胞などです。外敵が侵入しやすい粘膜にいる樹状細胞は、細菌の異常な増殖を察知すると、T細胞やB細胞に知らせます。その細菌に対応する抗体が足りない場合は、B細胞がどんどん抗体を作って、細菌を封じ込めます。すると、その細菌をマクロファージや好中球が処理します。ウイルスがたくさん侵入した場合は、樹状細胞から情報を受け取ったヘルパーT細胞が、仲間のキラーT細胞(CTL)を呼び寄せ、ウイルスに感染した細胞を破壊させます。
CTLのがんへの攻撃は補助的
CTLは担当する物質をひとつずつ持っていて、その物質を攻撃します。その性質上、正常な細胞を攻撃してしまうことは珍しくありません。一部のCTLは特定のがん細胞を攻撃します。そのため、CTLは免疫細胞療法にも応用されているのですが、がん細胞が表面から標的物質を引っこめてしまうと、全く反応しなくなります。基本的にこのキラー細胞の役割は外敵からの危険を除去することにあります。がんに対する免疫においては補助的に限られた働きをする細胞なのです。
どんながん細胞でも殺すNK細胞
がん免疫を中心的に担っているのは、よく知られているNK細胞です。健常者の血液にがん細胞を混ぜると、どんながんから採取したがん細胞でも、数日で消えてしまいますが、NK細胞の働きです。NK細胞は体内に約1000億いると考えられており、血液中にはその一部が出てきているのです。
NK細胞はがん細胞を見逃さない
がん細胞は元々、自己細胞だったのですから、外敵のように明確な目印は持っていません。活性が高いNK細胞は、自分の表面から数十種類のセンサーを伸ばし、相手の細胞の表面に現れている物質のバランスを探ります。そのバランスの異常で瞬時にがん細胞だと認識し、即座に攻撃をします。槍に相当するパーフォリンという物質で、がん細胞に穴を開け、爆弾に相当するグランザイムという物質を注入します。すると、がん細胞はアポトーシス(自然死)を起こして崩壊し、泡のように消えていくのです。この攻撃力はCTLとは比較にならないほどの強さです。