がん細胞と正常細胞の分かれ目
細胞は、DNAが損傷を受け、遺伝子変異が起こることでがん化します。しかし、遺伝子の損傷と修復自体は日常茶飯事で、ひとつの傷ですぐにがん細胞になるわけではありません。
遺伝子が変化するとがん細胞に
私たちの外見的特徴や能力などは遺伝によって伝えられています。しかし、遺伝子に大きな変化が起こり、その個体が生き延びたとすると、姿の異なる生き物が、この世界に誕生する可能性があります。生物進化です。飛躍した話のようですが私たちの体内でも同じことが起こる可能性が常にあります。遺伝子に変化(変異)が生じると、全く性質の違う細胞が誕生するのです。がん細胞はそうした遺伝子変異によって生まれます。
異常が積み重なってがん化
しかし、遺伝子の変異が全てがん細胞の誕生に繋がるわけではありません。私たちのDNA(遺伝子の鎖)上には2万2000余りの遺伝子が存在しますが、細胞のがん化に関係が深いのは、その膨大な遺伝子のごく一部です。それが現在まで約200個ほど見つかっている「がん関連遺伝子」です。しかも、そのどれかが傷ついたとしても、まだ細胞はがん化しません。多くの固形がんの場合、がん関連遺伝子の6つ以上に変異が起こらない限りがん細胞にはならないと考えられています。
がん化を防ぐ遺伝子もある
また、がん関連遺伝子といっても逆の働きをするふたつがあります。がん化を促すような働きをする「原がん遺伝子」と、細胞のがん化を防いでいる「がん抑制遺伝子」です。細胞ががん化するまでには、幾つかの原がん遺伝子が活性化して「がん遺伝子化」することと、幾つかのがん抑制遺伝子が壊れて働かなくなることが起こっているのです。
がん関連遺伝子の重要な役割
細胞のがん化に関わっているとはいえ、がん関連遺伝子は正常な細胞にとっても重要な遺伝子です。原がん遺伝子は必要な時に細胞を分裂・増殖させるアクセルとして働く遺伝子、がん抑制遺伝子は必要に応じてそのプロセスにブレーキをかける遺伝子です。これらがバランスよく働くことで、細胞の増殖がコントロールされているのです。
増殖が止められなくなってがん化
細胞分裂のアクセルとなる原がん遺伝子としてはRas遺伝子やmyc遺伝子などが、ブレーキ役のがん抑制遺伝子としてはRb遺伝子やp53遺伝子などがよく知られています。細胞のがん化はこうした増殖のアクセルが踏まれたままになり、同時にブレーキが効かなくなることで起こるのです。