検査から治療まで がんと遺伝子に関するQ&A 第三回「がん遺伝子治療とはどんな治療なのか?」
ヒトゲノムが解読され、がんと遺伝子の関係が明らかになりました。国はがんゲノム医療を推進し、遺伝子の変異を調べて、適切ながん治療を選択するという動きが加速しつつあります。一方で遺伝子の異常を補うことで、根本からがんを征圧していこうという治療が、どんどん進歩しています。このがん遺伝子治療について専門医である濱元誠栄先生にQ&A形式で解説していただきました。
Q がん患者の遺伝子にはどんな変異が起きているのでしょうか?
約5%のがん患者は、生まれながらにしてがん関連遺伝子に異常があります。APC遺伝子異常による大腸がん、RB遺伝子異常による網膜芽細胞腫、WT1遺伝子異常によるウィルムス腫瘍、p16遺伝子異常による悪性黒色腫、ret遺伝子異常による甲状腺髄様がんなどです。皆さんがよくご存じなのは、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、BRCA1/2遺伝子に異常があり、乳がんや卵巣がんになりやすいということで、乳房・卵巣・卵管を予防的切除したことでしょう。こうした遺伝子に異常があると、高い確率でがんになります。
大半のがんは生活習慣や環境によってがん関連遺伝子に異常が起こり、それが幾つも重なることで、がん細胞が生まれ、やがて大きな腫瘍になっていきます。
Q がん遺伝子治療では具体的にどのようなことを行いますか?
正常な細胞は、がん抑制遺伝子が機能し、一定の回数分裂すると、アポトーシス(細胞死)に誘導され、細胞の数がコントロールされています。しかし、がん細胞は、細胞の分裂に関わる遺伝子やがん抑制遺伝子が働かず、際限なく増えていきます。
がん遺伝子治療では正常ながん抑制遺伝子を人為的に補うことで、がん細胞が際限なく増えていくことを食い止め、さらにはがん細胞をアポトーシスさせます。やり方としては、ウイルスが細胞に感染する仕組みを利用し、無毒化したウイルスで人工的に作ったがん抑制遺伝子を送り込みます。
また、がん細胞が際限なく増える上では、細胞分裂の周期を調整する蛋白質の異常も関わってくるので、それを抑えるRNAも同時に投与することがあります。
Q 最新のがん遺伝子治療について教えてください。
がんに関係する遺伝子の研究は、常に進化しています。1998年、ガンキリンという遺伝子が多くのがん細胞に存在し(肝細胞がんでは100%)、殆どのがん抑制遺伝子が機能しないようにしていることがわかりました。2018年にはこのガンキリンの働きを抑制するRNAが開発され、最新のがん遺伝子治療に導入されています。
Q がん遺伝子治療を行うタイミングはいつがいいのでしょうか?
がんの根本にアプローチする治療ですから、基本的には予防から末期の治療まで全てのタイミングで有効です。
あえていうと、望ましいのは手術後に再発予防として行うことです。手術でがんが取れたように見えても、がんは細胞の単位で散らばっています。これは検査で調べることは出来ませんし、標準治療では予防的手段は限られます。
もっというと、医学的な意味での「発症」前に行うことでしょう。がん遺伝子検査では画像診断よりも早くがんのリスクがわかりますから、リスクが高いと思ったら、その時点で行うことをお勧めします。
≪取材協力≫ 銀座みやこクリニック https://gmcl.jp/