がん専門医に聞く腹水が溜まっても諦めない治療法
肝臓や膵臓、胆管などのがんが進行すると、腹水に悩まされることが多々あります。また、腹水が溜まり出すと、もう症状は回復しそうにないと悲観的になる患者さんは少なくありません。千葉県松戸市でホロス松戸クリニックを開業する村上信行医師は、肝がんなどで腹水に苦しむ患者さんに対して、主に粉末やエキスの漢方薬などを使った治療を行っています。
腹水が溜まるのは、肝臓の障害が原因
──肝臓がんなどが進行すると、腹水に悩まれる患者さんが多いのですが……
肝臓、膵臓、胆管のがんの方に多く見られます。腹腔内には通常、20~50mlのリンパ液があるのですが、これが異常に増えた状態です。量が増えると、内臓、特に胃が圧迫されて食欲がなくなり、体力の低下を招きます。また、余分な水分が排出されないのでむくんだり冷えたりしやすくもなります。
──肝臓がんなどが進行すると、なぜ腹水が溜まるのでしょうか?
がん患者さんの腹水は、肝臓の機能低下が主な原因といえます。アルブミンという蛋白質は、肝臓で作られていて、血液中で一定の濃度を保っています。アルブミンは浸透圧を生み出し、体内の水分を血管内に吸い込み、水分代謝をコントロールしています。そのため、肝臓が弱り、血液中のアルブミンの濃度が下がると、体内や腹腔内に水分が溜まっていくのです。
また、腹水が溜まる原因のひとつに、肝臓がんや肝硬変で肝臓の血流が悪くなることがあります。腹膜の血液は、肝臓に流れているので、行き場を失った血液から、水分が腹腔内に漏れて、腹水となるのです。
さらに、肝臓への血流が減ると、様々な体の機能が低下します。そのひとつに腎臓が弱くなることがあり、尿として水分やナトリウムを十分に排出出来なくなります。これがさらに水分の代謝を悪化させます。
要するに肝臓がんや肝硬変によって起きる腹水は、肝臓の障害が主な原因といえます。注意を要するのは、肝臓には解毒という役割があるので、抗がん剤をはじめ様々な薬を使うと、それだけ肝臓に負担がかかり、腹水が溜まりやすくなるという悪循環に陥ることです。よって、肝臓の働きを強くする手段が必要です。
◆腹水が溜まる原因
●肝機能の障害によるアルブミンの低下 |
●肝細胞の血流が悪くなることによって起こる門脈圧の上昇 |
●腎機能低下によって引き起こされる尿量の低下 |
これらが連鎖し悪循環に
↓
腹水が溜まり続ける
腹水が溜まった患者さんへの一般的な治療は、根本的な治療ではない
一般的には腹水が溜まると、かなり病気が悪化したということで悲観的になる方が多いようですが……。
実際、腹水が溜まるというのは、かなり症状が悪化していることを物語っています。しかし、その段階からでも出来ることはありますし、実際にそこから回復されている方は少なくありません。問題は、腹水が溜まった患者さんへの一般的な治療は、根本的な治療ではないということです。
まず腹水が溜まったら、安静を保つように指導されますが、これは逆に体力を低下させます。急性期の患者には安静は必須ですが、慢性疾患が進行している患者に対しては当て嵌まりません。ヒトの体は二足歩行で重力に逆らうような構造になっています。筋肉を使わなければ、体力は低下していくのです。何もジムで大袈裟なことをする必要はありませんが、歩いたり筋トレをしたりするなど、軽い運動を心がけてください。
塩分や水分を控える、利尿剤で余計な水分を出す、アルブミンを点滴で補うなども有効ですが、あくまでも一時凌ぎに過ぎません。なぜ、腹水が溜まるのか、その根本から改善していく必要があります。
最終的に腹水を抜くというやり方もありますが、同時に体に必要な成分まで失われてしまいます。症状に苦しんでいる患者さんに対してやむなく行うことが多いのですが、医師としても基本的には積極的ではないと思います。一部では抜いた腹水を濾過して、必要な成分だけを体内に戻すということも行われていますが、これも対症療法で、腹水が溜まるスピードが速まれば追いつきません。
しかし、肝臓は再生力の強い臓器です。肝臓の働きを助けることで、元気を取り戻します。アルブミンなどの蛋白質や栄養素を作りはじめ、全身の栄養状態が改善し、回復に持っていくことが出来ます。
村上先生のクリニックでは具体的にはどのような治療を行われていますか?
内臓のがんやがん性腹膜炎などの方には強い抗炎症作用がある漢方薬を処方します。次に食欲不振や栄養不足で体力が低下している方には、肝臓への栄養補給を考えます。抗がん剤は肝臓には大きな負担になるので、副作用の対策を含めて、肝機能を増進させる漢方薬が有効です。血液循環の促進も重要です。肝臓、腎臓への血流を促すようなケアを考え、水分代謝の改善を図ります。ポンプのように気、血、水が全身を巡りやすくするのです。腹水の患者さんやがん患者さんのために独自で調合した生薬、機能性の薬膳成分のエキスや粉末を2~4種類、患者さんに服用していただいています。煎じ薬ではないので患者さんには負担になりません。量が飲めない患者さんには、お茶などの水分に溶かせるエキスを使います。
患者さんに一条の光、可能性を提示するのが、自分の使命
──症状、治療は患者さんによって様々ですね。
患者さんにとっては一日一日が大切な時間です。お待たせしないように、また遠隔地でも受診していただけるように、 電話やインターネットでの対応もしています。問診と血液検査の結果で判断するので、データはLINEなどで送ってもらいます。また、ご相談だけであれば無料で応じています。
◆主な判断材料となる血液検査の数値
アルブミン(ALB) |
コリンエステラーゼ(CHE) |
γ-GTP |
T-Bil(総ビリルビン) |
アンモニア |
──最後にがん治療に対する考え方をお聞かせください。
標準治療で出来ることは概ね決まっていますが、がんが進行してくると、それだけでは十分とはいえません。これ以上は積極的な治療は出来ないという時が、いつかはやってきます。しかし、患者さんや家族の方はそう簡単には諦められないはずです。そこに一条の光、可能性としての選択肢を提示することが、自分の使命だと思っています。
また、現代医学は病気や症状のみを対象にして、それをいかに排除するかに注力しがちです。私たちの体、命は調和のとれた存在であり、病気や症状の部分のみを排除しようとすることには無理があります。病気や症状はその調和が乱れた結果です。そこを修正して、根本にアプローチすることで、体に本来備わっている治る力を利用すれば、がんや腹水の患者さんでも回復することが出来るでしょう。私はそう信じて、漢方治療を行っています。
ホロス松戸クリニック腫瘍漢方内科 院長
医師・医学博士 村上信行
〒271-0092
千葉県松戸市松戸1291-1古賀ビル201
JR「松戸」駅より徒歩3分
047-364-4127
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18:00~20:00
※土曜日は9:30~12:00まで診療
休診日 水曜、日曜、祝日
※月曜は完全予約制・がん患者診療日
URL https://holosmatsudo-kampo.com/