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2020-06-03

光免疫療法に光は必要なかった


光免疫療法が苦手とする体の深部のがんに対する治療が可能になるかもしれません。

光免疫療法の化学的な仕組みはわかっていなかった
がん細胞をピンポイントで叩ける新たな治療として期待されている光免疫療法は、現在、柏市の国立がん研究センター東病院で治験が進められています。IR700という色素を抗体によってがん細胞に送り込み、近赤外線を照射して反応させることで、がん細胞を内側から破壊するという仕組みです。もう少し詳しく説明すると、IR700の水溶性の軸配置位子が外れ凝縮していくことで、がん細胞は破壊されるのですが、近赤外線がどのように作用した結果なのか、また近赤外線がそのスイッチなのかは明確ではありませんでした。

近赤外線で直接、IR700が反応するわけではない
北海道大学のグループはこの点について研究を行い、IR700は周辺の水分子によって水溶性軸配置位子が外れることを突き止めました。また、IR700は近赤外線によって活性化されますが、そこから直接水溶性軸配置位子を切断されるわけではなく、システインなどの電子を与え易い物質から、電子を受け取ってラジカルアニオンという状態になって、水分子によって水溶性軸配置位子を切断され易くなることもわかりました。つまりこのラジカルアニオンという状態を作り出せれば、近赤外線がなくてもIR700は反応するわけです。光免疫療法の課題は、近赤外線を照射しにくい体の深部への治療が難しいことです。外科的に照射する器具を挿入することは可能ですが、部位が限られ、侵襲は避けられません。そのため、今回の発見は何か別の化学的手段を講じることで、近赤外線を照射しなくても、光免疫療法を行うことが可能になることを意味しています。

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