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2019-07-31

がん細胞を攻撃するNK細胞以外の免疫細胞「NK-T細胞」

がん治療がどんどん免疫重視に舵を切られていく中、様々な治療が開発されています。そんな中、NK-T細胞に関するニュースが幾つか報道されています。免疫細胞の培養を行うリンパ球バンクの代表である藤井真則さんに、NK-T細胞についてお話を伺いました。


NK-T細胞はNK細胞に似た性質を持ち
培養はNK細胞より容易


――NK-T細胞によるがん治療をどうお考えですか?

 NK細胞よりは培養が容易なので、手がける研究者は多く、iPS細胞から作り出す研究についても報告されています。免疫細胞には様々な種類がありますが、NKT細胞はNK細胞とT細胞の中間的な性質を持つ細胞です。但し、T細胞にかなり近いものをNK-T細胞と主張しているケースが目につきます。


――なぜ、NK-T細胞を使った治療が研究されるのでしょうか?

 がんで亡くなる方が減らないのは、がん細胞だけを選んで攻撃することが出来ない標準治療の限界から来ています。我が国でもやっと近年になって免疫細胞の能力を回復させ、がん細胞を狙い撃ち出来るかどうかが、がん治療の鍵であることが認識されるようになりました。しかし、がん患者の免疫は強く抑制されており、外から刺激を加えても、安全なレベルの刺激では効果が
ありません。また、免疫は複雑な仕組みでバランスが保たれており、T細胞を刺激し過ぎると、正常細胞を攻撃し、自己免疫疾患などのリスクも大きくなります。そこで、正常細胞を攻撃しないNK細胞を、患者さんの体外で確実に活性化し、再び体内に戻す免疫細胞療法が開発されました。

 がん細胞を攻撃するのは、NK細胞とT細胞の2種類です。ところが、NK細胞はあらゆるがん細胞を見分けて排除出来る反面、培養するのが極めて難しい。それで他の免疫細胞の活用を考えるようになるのです。T細胞は、培養が容易ですが、がん細胞だけを攻撃することは出来ません。自分のタイプに合った特定の細胞だけを、がんか正常かを問わずに攻撃するだけです。NK-T細胞はT細胞よりは攻撃対象となるがん細胞のタイプが多いのですが、T細胞の性質も持ち合わせ、喘息など自己免疫疾患の原因になります。

がん免疫の主役が
NK細胞であることは明らか


――iPS細胞からNK-T細胞を作る研究がありますが……。

 NK-T細胞は血液中に僅かしか存在しないので、iPS細胞として数を増やしてからNK-T細胞にするのだと思いますが、遺伝子を操作するので、安全性の問題を抱えてしまいます。


――リンパ球バンクではNK-T細胞療法を実施しないのですか?

 NK-T細胞、γ/δT細胞、樹状細胞などひと通りの免疫細胞を検討しましたが、何といってもNK細胞の攻撃力は圧倒的です。どんながん細胞でも認識することに加え、もうひとつ決定的なのが免疫刺激能力があることです。強い免疫抑制のかかったがん患者の体内でも、強力な免疫刺激をかけられるのはNK細胞だけです。他の免疫細胞は体内に戻した途端、活性が下がってしまい役に立ちません。そこで、現在有償で提供しているのはNK細胞を増強するANK療法だけです。


――がん免疫の主役はNK細胞であるにもかかわらず、様々な免疫細胞が使われるのはなぜでしょうか?

 がん免疫の主役がNK細胞であることは明らかです。しかし、培養が困難だという理由で、NK-T細胞やT細胞、或いは樹状細胞などを利用する免疫細胞療法が行われています。また、「NK細胞」をうたっている免疫細胞療法の多くは、NK細胞の数も質もがんと闘うには心許ないという現実もあります。

 取り扱いやすいT細胞は研究の対象に向いています。研究者が興味を持つのは当然のことです。そして、研究者にとって重要なテーマは、必ずしも実用的ではありません。近年、がんが多くの方の関心事になったので、新聞や雑誌、TVで最新のがん治療や研究について報道されることが多くなりました。現在進行形でがんと闘っている患者さんにとって、生きるか死ぬかは切実な問題ですから、新しい技術があるなら、それに懸けてみようという気持ちになるでしょう。しかし、最新の研究であっても、実用化され患者さんの役に立つかどうかはまた別の問題なのです。

リンパ球バンク株式会社
代表取締役 藤井真則
三菱商事バイオ医薬品部門にて2000社以上の欧米バイオベンチャーと接触。医薬品・診断薬・ワクチンなどの開発、エビデンスを構築して医薬品メーカーへライセンス販売する業務などに従事。既存の治療の限界を痛感し、「生還を目指す」細胞医療を推進する現職に就任。

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