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2019-04-01

免疫細胞療法「CAR-T」が保険収載間近。CAR-NKも開発中

免疫細胞療法の一種であるCAR-T「キムリア」が、保険収載間近です。米国での5000万円超という費用など、いろいろと話題になっていますが、がん免疫においては主役といえないT細胞を使う上での限界もあるようです。既にT細胞ではなくNK細胞を使ったCAR-NKも開発されているとか。リンパ球バンク代表取締役の藤井真則氏にお話をうかがいました。

――CAR-Tがいよいよ国内でも保険収載されそうですね。
感染症免疫の主役であるT細胞には、がん細胞を認識する専用センサーはなく、ほんの一部ががん細胞を攻撃することはあるのですが、正常細胞も攻撃します。また、免疫抑制が強いがん患者さんの体内では、すぐに活動が鈍ります。そこで、患者さんのT細胞を取り出して、CD19という物質を標的として攻撃するように、また体内で強い免疫刺激をかけ続けるように、遺伝子を改変し、培養後に体内に戻すのがCAR-T「キムリア」です。CD19を発現する正常なB細胞と、がん化したB細胞の両方を攻撃し、免疫刺激が過剰になることでの副作用もあります。

――がん免疫の主役はやはりNK細胞なのですね。
実はNK細胞の遺伝子を改変するCAR-NKも、海外で臨床試験が行われています。野生型のNK細胞は、攻撃力が強い反面、自爆しやすく、培養には高度な技術が必要です。そこで、セルラインといって研究用に特殊な選別をかけて、何代にも渡って培養を重ねてきたNK細胞を使うのですが、がんに対する攻撃力は極端に弱く、認識するセンサーも野生型より遥かに少なくなり、MHCクラス1を発現するタイプのがん細胞などを認識出来なくなります。どんながん細胞でも攻撃する野生型とは大きな違いがあります。

――CAR-NKの場合もCAR-Tと同様の遺伝子改変を行うのですか?
セルライン化したNK細胞をベースに使うので、培養は簡単になるのですが、NK細胞本来の攻撃力が失われていますから、CAR-Tと同様の遺伝子改変を行います。こうした遺伝子改変によるセンサーはがん細胞を認識するのではなく、一部のがん細胞に多く見られる蛋白質を目印に攻撃させるわけです。がん細胞にのみ存在し、正常細胞に存在しない目印などはありませんから、当然、正常細胞も攻撃を受けて、副作用が出ます。

――それではCAR-Tとあまり差がないような気がしますが……。
大きな違いは、T細胞は拒絶反応を起こすため、CAR-Tは患者さん本人のT細胞から作るしかありません。従って、大量生産が不可能です。その点、NK細胞は他人のNK細胞を使っても、拒絶反応はほぼ起こりません。正常細胞は細胞分裂の回数に限度がありますが、セルライン化された細胞は際限なく増殖するので量産向きです。また、CAR-Tでは固形がんを上手く攻撃出来ないのですが、NK細胞を使えば、固形がんでも攻撃し易いと考えられています。

――CAR-Tの開発が先行したのはなぜでしょうか?
やはりNK細胞よりも培養が容易で、研究者が普段から馴染んでいるからです。また、T細胞は増殖スピードが速いので、遺伝子改変した少数の細胞を短期間で増殖させるのには向いています。NK細胞の強みは、活性が高ければ、どんながん細胞でも、たとえ他人のがん細胞でも見逃すことなく傷害することと、正常細胞は攻撃しないことです。CAR-Tの限界は、NK細胞の強みを物語っています。私たちはこのNK細胞本来の強みを活かすというアプローチで、野生型のNK細胞をそのまま用いるANK療法をサポートしています。患者さんのNK細胞を体外で培養し、量と質(活性)をがんと闘える戦力に向上させた上で、効果と安全性のバランスを保ちながら、点滴で戻すという治療ですが、これは困難とされるNK細胞の培養を、自由自在に行える技術があるからこそ可能なのです。

リンパ球バンク株式会社
代表取締役 藤井真則
三菱商事バイオ医薬品部門にて2000社以上の欧米バイオベンチャーと接触。医薬品・診断薬・ワクチンなどの開発、エビデンスを構築して医薬品メーカーへライセンス販売する業務などに従事。既存の治療の限界を痛感し、「生還を目指す」細胞医療を推進する現職に就任。

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