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2017-12-12

「がん細胞だけを攻撃する画期的な治療」の殆どは事実誤認


画期的ながん治療が登場すると、しばしば「がん細胞だけを攻撃する」という文句が使われます。しかし、現状ではがん細胞だけを化学的に区別する技術は確立されていません。

がん細胞を識別しなければ、がん細胞にだけ効く薬は作れない
がんという病気が厄介なのは、細胞の単位で全身に飛び散るからです。目に見える大きながんを手術や放射線でなくしても、全てのがん細胞を排除しなければ、再発や転移のリスクが残ります。そのため、抗がん剤などの全身療法が必要になるのですが、抗がん剤はがん細胞だけを攻撃するわけではありません。正常な細胞を含めて、分裂中の細胞のDNAをばらばらにして傷害します。がん細胞は分裂が早いので、正常な細胞よりも攻撃しやすいだけなのです。薬が効くためには、対象を化学的に識別する必要があります。ところが、最近やウイルスと違って、がん細胞は私たちの体内で作られたものなので、がん細胞にしか存在しない異物が含まれていないのです。正常な細胞への影響をなくし、副作用を防ぐには、がん細胞と正常細胞を明確に区別する必要があるのですが、それは今の科学では不可能なことです。

CART-Tをはじめ、話題の治療も正常細胞への影響はある
オプジーボ、光免疫療法、CART-T……最新のがん治療の多くは「がん細胞だけを攻撃っする画期的な治療」と報道されます。しかし、どれひとつとして前述のハードルをクリア出来ていません。オプジーボは、がん細胞が生き残るために、免疫細胞のひとつであるT細胞にかけているブレーキを解除するのですが、ブレーキを外されたT細胞は正常細胞を攻撃し、自己免疫疾患という恐ろしい副作用を招く可能性があります。光免疫療法は、近赤外線に反応して発熱する色素を、分子標的薬に乗せて、がん細胞に送り込みます。しかし、使用されている分子標的薬は抗体として正常細胞も抗原として認識する場合があります。CART-Tは、患者自身のT細胞を遺伝子改変し、がん化したB細胞(免疫細胞のひとつ)への攻撃性を持たせるという治療ですが、何を目印にするかといえば、正常なB細胞にも発現しているCD19です。

がん細胞を化学的に区別することは、がん征圧とほぼ同じ意味
オプジーボは従来の抗がん剤とは異なる作用機序、光免疫療法は近赤外線を使うという目新しさ、CART-Tは遺伝子を操作するという未来的なイメージがあり、それぞれが実際の効果や実用性以上に持て囃されたところは否定出来ません。もし、本当にがん細胞だけを認識、攻撃する技術が確立されたら、それはがん征圧への道筋がついたといっても過言ではないくらいです。あまりこの文句は安売りしてほしくないものです。

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