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2016-07-08

肺がん

肺がんの傾向
肺がんは近年、罹患数、死亡数ともに急増しているがんです。そして、特に死亡率が高いのが特徴です。男女を合わせた肺がんの罹患数は、大腸がんに次いで2位(男女別だといずれも3位)ですが、死亡数では抜きんでており、ワーストを更新中です。2015年の人口動態統計によると全てのがんでの死亡者数37万131人(全死亡者数の28.7%)に対して肺がんで亡くなった方は7万4334人(同5.8%)になります。肺がんの罹患数、死亡数は、ともに男性が女性の2倍以上です。最大の原因とされている喫煙率との相関がうかがえます。

肺がんの種類
肺がんは組織型(細胞の特徴)によって大きく「非小細胞がん」と「小細胞がん」に分けられます。さらに、非小細胞がんは「腺がん」「扁平上皮がん」「大細胞がん」に分かれます。肺がんのおよそ60%は腺がんで、その次に多いのが扁平上皮がんです。

腺がん
肺野部(肺の奥のほう)に出来ることが多く、初期には症状が出にくいがんです。女性に多い肺がんで、タバコを吸わない方にも、比較的多く発症します。同じ腺がんでも性質や増殖の速さは様々です。

扁平上皮がん
肺野部にも出来ますがどちらかというと肺門部(肺の入り口近く)に多いがんです。肺に扁平上皮がんが出来るのは、多くの場合、喫煙していた方です。

大細胞がん
大細胞がんは腺がんや扁平上皮がんの特徴が見られない場合につけられる診断名です。性質は様々で、小細胞がんと性質が似ていることもあります。

小細胞がん
肺門部に出来ることが多く、小さめの細胞が密集して広がります。罹患者は概ね喫者。増殖が速く転移しやすいものの、抗がん剤や放射線が効きやすいのも特徴です。

肺がんのステージ分類

腺がん・扁平上皮がん・大細胞がん
非小細胞がんのステージは他の多くのがんと同じようにT因子、N因子、M因子を基準として次のように分類されます。

ステージ

Tx 0
T1 IA IIA IIIA IIIB IV
T2 IB IIB IIIA IIIB IV
T3 IIB IIIA IIIA IIIB IV
T4 IIIB IIIB IIIB IIIB IV

T因子(原発腫瘍)

Tx 原発腫瘍が見られない
T1a 腫瘍の最大径が2cm以下
T1b 腫瘍の最大径が2cm超3cm以下
T2a 腫瘍の最大径が3cm超5cm以下、または3cm以下で胸膜に浸潤
T2b 腫瘍の最大径が5cm超7cm以下
T3 腫瘍の最大径が7cm超で、胸膜・胸壁・横隔膜・心嚢などに浸潤、または気管分岐部から主気管支に2cm未満の浸潤
T4 縦隔、心臓、大血管、気管、食道などに浸潤

N因子(所属リンパ節)

N0 所属リンパ節に転移なし
N1 原発巣と同じ側の気管支周囲、または肺門、肺内のリンパ節に転移
N2 原発巣と同じ側の縦隔、または気管分岐部のリンパ節に転移
N3 原発巣と反対側の縦隔か肺門、または左右どちらかの前斜角筋、鎖骨上窩リンパ節に転移

M因子(遠隔転移)

M0 遠隔転移なし
M1a 原発巣と反対の肺内に結節、または胸膜の結節、悪性胸水、悪性新嚢水あり
M1b ほかの臓器に転移あり

小細胞がん
小細胞がんは転移が速いので、TNM分類ではなく独自の基準で進展度を示します。

限局型(LD) 片側の肺と近傍リンパ節(縦隔、鎖骨上窩リンパ節も含む)にとどまっている 進展型(ED) 肺の外側や多臓器への転移が見られ、限局型よりもがんが広がっている

肺がんの生存率
肺がんの生存率は非小細胞がんか小細胞がんか、どんな治療を行ったかなどで、大きく変わります。通常、予後の目安は5年生存率で示されることが多いのですが、治療が難しいステージIVは、1年生存率で示されることがあります。以下が非小細胞肺がんと小細胞肺がんの大まかな生存率です。ステージが同じでも、個々の患者で状態は異なりますから、あくまでひとつの参考と考えてください。

非小細胞肺がんの大まかな生存率

ステージ 5年生存率 1年生存率
手術 放射線・化学療法 化学療法
IA期、IB期 70〜80%
IIA期、IIB期 50〜60%
IIIA期、IIIB期 30〜40% 15〜20%
IV期 50〜60%

小細胞肺がんの大まかな5年生存率

ステージ 5年生存率 3年生存率 2年生存率
放射線・化学療法 放射線・化学療法 化学療法 放射線・化学療法
限局型 20〜25% 20〜25% 40〜50%
進展型 5〜15%

肺がんの治療法
他の部位に出来たがんと同様、肺がんにおいても標準治療の柱は手術、放射線、抗がん剤です。主に選択される治療法は、肺がんの種類やステージによって違います。

手術
生存率を見ればわかるように、手術出来るかどうかは肺がんの予後を大きく分けるポイントです。手術の対象となる目安は、非小細胞がん(腺がん・扁平上皮がん・大細胞がん)のI期からIIIA期が中心です。小細胞がんは限局型の一部を除いて、ほぼ手術の対象となりません。なお、IIIA期を過ぎた非小細胞がんであっても、抗がん剤治療や免疫細胞療法が奏効し、浸潤・転移の度合いが緩和したら手術出来る場合があります。それを目指して、積極的に治療設計を組み立てるという考え方もあります。

放射線
放射線は、腫瘍が比較的小さくまとまり、周囲に広がっていない場合に、特に効果的です。積極的治療と補助的治療があります。積極的治療は小細胞肺がんや手術が向かない非小細胞肺がんを縮小する目的で行います。放射線は抗がん剤と同様、増殖の速いがんほどよく効く傾向があり、小細胞肺がんには有効な治療法です。補助的治療はがんに伴う痛みや症状を緩和する目的で行ないます。肺がんは骨や脳に転移するケースが多く、転移巣に放射線治療を実施することで、症状の改善が期待されます。

抗がん剤(非小細胞がん)
肺がんに抗がん剤を用いる場合、非小細胞がんか小細胞がんかでやり方が異なります。非小細胞がんは手術で切除する治療が基本なので、手術出来るケースでは手術との併用が原則です。手術が適さないステージIIIB期やIV期になると、標準治療では抗がん剤以外の手段はほぼなくなります。非小細胞がんには腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんの違いがありますが、標準治療で使う抗がん剤は同じです。主にシスプラチンという薬をベースに、2~3種類の抗がん剤を併用します。

抗がん剤(小細胞がん)
小細胞肺がんに抗がん剤を用いる場合、どちらか片方の肺にとどまっている限局型と、他の部位まで広がっている進展型で、やり方が異なります。限局型の小細胞肺がんでは抗がん剤に放射線をプラスする化学放射線療法がよく採用されます。一方、進展型ではほぼ抗がん剤のみでの治療になります。「シスプラチン+イリノテカン」「シスプラチン+エトポシド」というように2~3種類の抗がん剤の組み合わせで投与します。

以上が肺がんの標準治療のあらましですが、いずれにしても肺がんの克服は容易ではありません。特に進行がんを対象として実施される標準治療は、他の部位のがんと同様、延命が目的となります。肺がんの治癒を求める方は、標準治療の限界を他の先端治療で補うことを検討したほうがよいかもしれません。保険診療以外にも視野を広げると、例えば標準治療を続けながら、免疫細胞療法を自由診療で受けるといった選択肢があります。

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